新聞切り抜き帖

2003年1月27日(月)朝日新聞 朝刊

ホームヘルプ利用時間に「上限」厚労省方針

障害者支援の低下懸念
 4月に始まる障害者「支援費制度」をめぐり、厚生労働省と障害者団体の対立が深まっている。国庫補助金の配分にあたって、ホームヘルプサービスの利用時間に一律の基準を設ける方針を同省が決めたからだ。施設を出て地域で暮らしたい障害者を後押ししようという制度の理念は保たれるのか。対立の論点を整理した。(清川卓史)

■1月14日、以前東京都調布市の手話サークルで活動されていた大脇正昭さん(http://member.nifty.ne.jp/owaki/)から緊急のメールがありました。何でも支援費制度に関して厚労省が給付(支援費)に「上限」を設けようとしているので、反対行動を呼びかけている、とのこと。その日、社会保険庁に出掛けた職場の上司が帰って来るなり「厚労省の周りを障害者が取り囲んでいて中に入れないんだよ。」とボヤいてるのを聞いて内心「それって大脇さんが呼びかけてたヤツだ!」などと思っていました。

■その後、1月21日にもメール第2弾が届き、次回は1月28日に反対行動を行う呼びかけがなされていました。そんな折り、今朝の朝日新聞に「支援費制度」のことが取り上げられていました。僕が日常接する聴覚障害の仲間達は、今回の支援費制度についての関心があまり高くないようなんですが、日常生活を24時間介護等で行っている方にとっては死活問題です。

■それにしても、こうしてML(メーリングリスト)を使って呼びかけた反対行動に1000名の仲間が結集したということは、スゴイことだと思います。市民運動にこそインターネットが大きな力を与えてくれることを実感します。残念ながら茨城の手話関係者の間では、まだまだインターネットで呼びかけて人が大勢集まれる状況にはありませんが、茨城のような地理的に不便な地域こそ、こうしたインターネットの活用をもっと真剣に考え、インターネットを我々の運動の発展のための武器とすべきだと思うのです。そうこうするうち、結果報告(第3弾メール)まで届きました。


「地域で生活」揺らぐ根幹

 食事や入浴の介助をするホームヘルプサービスは、在宅支援の中心となる。障害者団体は厚労省が設定しようとする基準について、実質的に利用時間の「上限」となり、サービス抑制につながると猛反発。今月中旬から連日のように同省に集まり、抗議行動を展開している。
 基準値の一例として同省は当初、脳性マヒなど全身の障害者で月120時間(1日4時間)を検討。この基準を超えるサービス提供については、事業費の2分の1を占める国庫補助はなくなると受け取れる説明をした。このため障害者側は、「4時間では生きていけない」「施設に戻るしかない」と訴えた。
 抗議行動を受け、同省は24日深夜、基準設定により支給される補助金が従来の額を下回る市町村には、原則として前年度の実績を確保し、サービス低下を招かないようにする経過措置案を障害者側に示した。坂口厚労相もこれに先立つ午前の記者会見で、「障害者の生活実態を変えないようにする」と、サービスの現状維持を明言した。
だが障害者らは納得しない。経過措置で当面はしのいだとしても、基準設定がもたらす問題に変わりはないと主張する。

「補助金公平配分」と説明

 03年度の国のホームヘルプ予算案は約280億円と、前年度に比べ実質14・5%伸びた。それでも支援費制度では介護保険並みにサービス単価が引き上げられるため、補助金が足りなくなる恐れがある。「だから障害種別に一律の時間基準を定め、市町村ごとの障害者数に応じて公平に補助金を配分する必要がある」。これが厚労省の理屈だ。
 しかし同省は、介助サービス時間が障害の種別によってどのように分布しているか、といった基本データも把握していないという。知的障害関係では、全体の3割が暮らす入所施設関係に予算の7割が使われているが、この不均衡の解消策も議論されていない。
 同省は、基準設定にはホームヘルプサービスの水準が遅れている自治体の底上げを図る狙いがある、とも説明する。
 しかし、高水準のサービスを提供してきた自治体にとっては、補助金を減らされる懸念がある。これ以上の国の補助金増額が期待できない財政事情では、現在、利用時間の基準を満たしていない自治体がサービス量を増やせば増やすほど、「先進自治体」への分配は削られる構図だからだ。
 このため、相対的に手厚いサービスを提供してきた東京都などから「地方に負担をしわ寄せするもの」と、厚労省案の撤回を求める要望が相次いでいる。ある政令指定市の福祉担当者は「国の基準ができると、それを超える上乗せサービスを市の財政当局に認めさせることは難しくなる。基準値を超えている人には削減を検討せざるを得ない」と話す。
 限られた予算配分のための指針は必要だろう。障害者団体も「その議論は否定していない。しかし、国が「基準」を強引に導入すれば、ホームヘルプサービスの伸びは抑えられ、「施設から地域への移行」という支援費制度の根幹が揺らぐ恐れは否定できない。
 今月28日には全国の担当課長会議が予定されている。何よりも、制度を使う障害者側に立った見直しが求められている。
障害者支援費制度
 身体・知的障害者が必要な福祉サービスを自ら選び、事業者と契約する仕組み。行政がサービス事業者を決める現行の「措置制度」を改め、利用者と事業者を対等な契約関係に変えることで、サービスの質向上を目指す。
 「支援費」とはサービス提供に必要な費用。
 障害者は市町村に支援費の支給を申請し、市町村は障害の程度などを考えてサービス内容を決める。
 財源は従来通り、国や自治体の障害者福祉予算で、利用者が支払い能力に応じて費用を負担する点は変わらない。
 利用見込みは約42万人。
 今回浮上した利用時間の「基準」は、全身性障害者、そのほかの身体障害者、知的障害者など障害種類ごとに月単位で設定する。基準時間数と障害者数、サービス単価をかけた額の2分の1が国庫から市町村に支給される。
ホームヘルプサービスの現況
◇在宅で暮らす障害児・者数
 ・身体障害=約333万人、知的障害=約33万人
◇身体障害者ホームヘルプサーピス
 ・全国で約4万8千人(うち脳性マヒなど全身性障害者約1万人)が利用
 ・利用時間=週2回までが約70%、月平均8〜16時間
◇全身性障害者に対するサービス
 ・全身性介護人派遣事業を実施=194市町村
 ・1カ月あたりの上限=18時間〜上限なし
◇03年度ホームヘルプ予算案
 ・約280億円(対前年比13億円、実質14.5%増)
◇新障害者プランの目標
 ・07年度までにホームヘルパー6万人を確保
全国自立生活センター協議会代表
中西 正司さん
厚労省障害保健福祉部長
上田 茂さん
全国一律の配分は誤り 現状維持へ措置講じる
 我々の目標は、全国の障害者が地域で暮らせるようになることです。住まい探しから日常生活の助言まで、様々な支援体制ができて初めて、障害者は施設から出ることが可能になります。
 予算に限りがあることはわかっています。しかし、ホームヘルプサービスの予算を全国一律に配分することで、地域格差がなくなるという厚生労働省の考えは誤りです。このままでは、予算を使い切れない市町村が続出しかねません。
 その一方で、現在のサービス水準を低下させ、既に地域で暮らしている障害者を不安にさせるようでは、支援費制度の信頼性を疑わせることになります。まず現行分を100%保障し、そこから広げていくべきです。
 フィンランドでも、サービス水準の高いヘルシンキに障害者が集まりました。同国は、ヘルシンキに障害者を転出させた自治体に、その人の費用を負担させました。その結果、どうせ払うのなら自前でやろうということになったそうです。
 介護保険は、スタートする4年前から各地でモデル事業を実施して準備しました。しかし支援費制度ではしていません。当面は「試行期間」として、市町村の申請通りに補助金を配分する従来の方法で始め、実際の利用実態を見ながら、適正な予算配分の方法を決めるべきです。
 支援費制度は障害者一人ひとりの契約に基づいてサービスを受ける仕組みで、だれもが、どこにいても安心して生活できる基盤整備が必要です。地域によって水準に著しいばらつきがあるのは望ましくありません。国の予算を自治体に配分するうえでも、公平な基準が必要です。
 今回は年末まで予算確保の見通しが立たず、関係者と十分な議論の機会が少なかったので、基準設定に対して障害者の方が懸念を持つのはよくわかります。ただ、基準は補助金の配分目安であり、市町村が決定する個々人へのサービスを縛るものではありません。
 今後、基準は「上限」でないことを自治体には十分説明しますし、現場に混乱が起きないよう、積極的な自治体への補助金は現状維持を原則とする方針です。また、設ける基準は、ヘルパー利用の平均的な時間を上回る水準にしたいと考えています。サービス単価も引き上げますので、ヘルパー事業者の参入促進が期待できます。サービス供給者が増え、利用者が増えれば平均時間も増えるので、補助基準も上がっていくことになります。
 デイサービスやショートステイなど、ほかの基盤整備も進めています。今後はこれらを組み合わせ、ホームヘルプを含めた総合的なサービスのあり方について検討する必要もあると考えます。

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