手話通訳士研修会

2002年10月12日(土)〜13日(日) 豊島区立勤労福祉会館 参加者;約100名?

奥野英子助教授の講演風景の写真

行ってきました「支援費制度研修会」。
講師も資料集もたいへん充実していて、中身の濃い研修でした。

1.カリキュラム

10月12日(土)
13:30〜15:00
支援費制度の概要 厚生労働省障害保健福祉部企画課
支援費制度施行準備室
 室長補佐 秋山 寛(ゆたか)氏
15:15〜16:40 社会福祉の動向と手話通訳
(木下が名づけた副題)
ろうあ運動から見た支援費制度の問題点と運動課題
日本手話通訳士協会
        川根紀夫事務局長
10月13日(日)
10:00〜12:00
社会福祉事業とサービス評価
(木下が名付けた副題)
「支援費制度に至るこれまでの社会福祉事業の流れ、及び福祉サービスの評価制度の導入について」
筑波大学大学院
リハビリテーションコース
        奥野英子助教授
13:00〜14:30 事業体から見た支援費制度
(木下が名付けた副題)
「介護保険と比較した支援費制度の問題点と、これからの福祉の理念について」
(社)大阪聴力障害者協会
        清田 廣会長

2.概観

閉会あいさつで茶髪の石原会長はこう言われた。「今回の研修会は上がったり下がったりだった。秋山さんや奥野さんの話を聞くと、なるほどそうなのか、支援費制度もいろいろ検討された結果出来上がってきたものなのだと妙に納得させられてしまうけれど、川根さんや清田さんのお話しでは、支援費制度の問題点が次々と明らかになっている。見る人の立場によってずいぶん違ってしまう。」

僕も全く同じ事を感じた。秋山さんの「支援費制度の概要」は、最新の資料に基づき「障害程度区分」や「支援費基準」の具体的数値も示された。先日茨城県南地域で行った学習会で出された疑問点のいくつかは、解決された。なるほどそういう制度なのか、ということがようやく分かってきたような「気がした」。

奥野さんのお話も、社会福祉の歴史をたどりながら大変分かりやすく支援費制度の背景を説明してくださり、後半では、制度の透明性を高めるには「福祉サービスに対する第三者評価」が重要であることをお話し下さった。そりゃ素晴らしい!と私は素直に感じたし、「手話通訳事業にも自己評価、第三者評価の導入が必要だ」とのお話しには、茨城でやるとなったら、こりゃ大変なことになるな、と感じた。

お二人のお話を聞くと、なんとなく支援費制度を理解したような気になるのである。

ところが、川根さんは、障害者ケアマネジメントの導入が見送られた支援費制度は、骨抜きだと喝破された。高齢者以上に個々のニーズが多様で、かつ、そのニーズ自体がなかなか見えにくい障害者に対するケアについて、役場の一担当職員が一週間程度の研修で「ケアマネジメント」するなどというのは、あまりにも安易な制度と言える。

さらに川根さんは、支援費制度と手話通訳者がどのように関わっていくのかという視点から、「措置から契約へというけれども、聴覚障害者自身の選択を保障する手話通訳とは、どのようなものなのか? 制度の内容を伝え、本人のニーズを把握し、最終的に利用者の選択を引き出すような手話通訳が、本当に今の状態でできるのか?」と問いかけられた。僕にそんなことができるだろうか?

川根さんは、最後に、聴覚障害者の生活を豊かにするために、この支援費制度を活用していくには、「支援・援助が必要な人」のことをキチンと理解し、そのニーズを掘り起こし、必要な支援とは何なのかを考え、適切なサポートのできる人材を育てていかなければならない。それは、単に”高度な手話通訳技術を持つ”と言われる手話通訳士の役割というだけでは、済ませられない、と言われた。日常的な生活援助は、単なる「手話通訳者」ではフォローできないのではないか。もっと身近な人たちのきめ細かなサポートが必要だし、それを担える人材を私たちの中でキチンと位置づけ育てていかなければならないのではないか?と言われた。

研修会の最後の講演者、大阪ろうあ協会の清田会長のお話しは、もっと明快だった。

「介護保険は、それに先立つゴールドプラン・新ゴールドプランにより、ほぼ100%条件整備がなされていたから、何とか制度がスタートできた。しかし、支援費制度のよりどころとなる障害者プランはどうか?紙の実施計画でさえ60%の自治体しか作っていないし、その計画の実行状況は30%に過ぎない。手話通訳士だって1000人だ。ケアマネジメントという仕事が成り立たないくらいのひどい条件だからこそ、障害者ケアマネジメント制度は見送られたのだ。それにも関わらず強引に制度実施が推し進められたのは、平成17年の介護保険の見直しに間に合わせるためだ。」

「また、事業体である大阪ろうあ協会という立場から見ると、支援費制度は経営の成り立たない制度だ。採算がとれる見込みが立たない。条件が未整備であることの問題点についての対策が、後回しになっている。このままサービスを提供する事業者が増えないと、サービスの選択どころか、逆に事業者から障害者が選別される時代になってしまう。障害の重い人ほど事業者から敬遠されてしまう。だからこそ大阪ろうあ協会としても、我々がやらなければならないと考えている。」

「今後、支援費制度が進んでいけば、”福祉は金で買う”時代になっていく。それはすなわち”権利を金で買う”ことに等しい。それで良いのか?介護保険も、お金のある人にとってはいい制度だ。けれども毎月の収入が10万円を超えるようなろう高齢者はほとんどいない。一人一人に合ったケアプラン作成もお金のない人には使えないのだ。福祉の理念がいま問われているのだ。

3.秋山寛さんの講演について

<工事中>

4.「ろうあ運動から見た支援費制度の問題点と運動課題」 −日本手話通訳士協会 川根事務局長

川根さんには、1995年世田谷で行った「全通研東京支部の頸肩腕学習会」でお話しを伺い、ガツーンと頭を殴られたような衝撃を受けた。(参考までにその時の講演の抜粋をご紹介します。)

今回のお話しも大変勉強になったのだが、いかんせん「話が難しくて」(私の理解力不足で)、講演全体の紹介は、士協会がいずれ発行するブックレットに譲り、取りあえず、僕が感動した講演最後の部分をまずご紹介します。

次に、僕が記した川根さん講演メモを紹介します。
なんせ難しかったので、あまり正確でないかもしれません。

 (1)平成17年の「介護保険見直し」とのからめて支援費制度を考える必要がある。

・介護保険法には、「施行後5年を目途としてその全般に関して検討が加えられ、その結果に基づき、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとする」と附則に規定されている。(川根さんは「附帯決議」と言われましたが、法律の附則第2条に直接書かれていました。)

 (2)つまり、平成17年の介護保険の見直しに伴って、支援費制度が介護保険に組み入れられるかもしれないということを念頭において運動を進めていく必要がある。

 (3)支援費制度を「どう使うのか?」を考える必要がある。

1.手話のできるヘルパーがいいのか?
2.ろう重複の仲間達は、ろう+知的障害をもっている。そういう仲間達に対して「障害程度区分」の認定を市町村職員が行う際には、「手話通訳者を付けて」ということになるだろうが、その人が持っている「概念の幅」はより狭いんだということを十二分に考慮した「通訳」を行わなければならない。
3.また、サービス提供の課程過程においてもコミュニケーションが取れない仲間がいることに対してどのような支援・援助が必要なのかを考えていかなければならない。例えば、デイサービスで「歌を歌おう」というプログラムがある場合には、それを享受できないろうの仲間に対しては、もっと違ったサービス計画表が求められることになる。
4.つまり、サービス計画は、それに参加できる人がいるかいないかで評価されるが、そもそもそうした社会資源があっても聴覚障害者には対応できていない場合がある。ろう者には楽しめないサービス計画が起こりうることを関係者に認識してもらう必要がある。

 (4)ケアマネジメントは、どこに位置するのか?

1) 受付(インテーク) ・専門性を持っていること
 <1>聴覚障害を理解
 <2>利用者への理解
ニーズを掘り起こすと言うことが必要
⇒それをどうつないでいくか?
2) アセスメント(評価・査定) ・なぜ、ずっと家にいて人と関わらなかったか
 <1>どうしてか?
   そのことによってどのような機能障害が発現したか?
   家族の果たした役割は?
 <2>どういう生活をしたいか?
   今までが「当たり前」になってしまっている。
   ⇒本人も家族も現状の方が楽?
   ⇒”希望”を調査することが非常に難しい。


・家族以外の資源をいれなきゃいけない場合もありうることを念頭におく。

・単純には「評価」できない
・「選択の自由」という概念が受け止められているのか?を考えながら評価する必要がある。
3) ケアプラン作成  <1>障害の受容・克服

 <2>カンファレンス(本人の意見聴取=本人の参加が大前提)

 <3>サービスの調整・改善・開発

 <4>コストマネジメント;費用(サービス)の配分を考える。
どういうニーズがあるのか?
⇒ないものは作っていく。
⇒どう運動化していくか?
 「作れ」と言わなければ行政は作らない。

・一つ一つのニーズを事業化する=ろうあ運動しかない!

・どこの誰がどこの施設の誰にいつ相談するのか?
⇒5W1Hをはっきりさせ、課題を表面化させる
4) サービスの提供とモニタリング サービスの状況を定期的に把握
・誰がマネージャーか?
 ⇒責任者を明記させるべき
  =サービス評価制度

情報の一元的管理
・しかし、支援費の出ない部分はつかめない。
 ⇒これではケアマネジメントとは言えない。
 ⇒ありとあらゆる社会資源を活用すべき
  例;手話サークル員のホームヘルプ
5) サービスの再調整
6) 修了評価 自己評価と提言を求める

 (5)こうしたケアマネジメントが障害者ケアマネジメントにおいては全然なされていない。

 (6)相談業務には手話通訳が介入する

・しかし、現状ではどこに誰が相談に行ったかも分からない。
・利用者主体=本人の経験の蓄積が大切(家族が代わっていてはダメ)

 (7)本人の「理解」の上で「申請」できるようになるための支援が必要

・例えば、「ショートステイ」とはどういうものか?通訳が介在して本人に理解してもらう
 ⇒本人が「行きたくない」と言った場合に、どう合意を得るか?
 ⇒今は、理解できないかもしれないが、経験を積む中から将来的に理解する力が身に付くように
 ⇒その人の持っている潜在的な能力を「見通す力」そして、周りの人や地域と「共同する力」が重要
・だからチームで動くことが必要
 ⇒より重い人ほど、チームでケアすべき!

 (8)そして最後に、最初にご紹介したお話しがあったワケです。

5.奥野さんの講演について

<工事中>

6.「事業体から見た支援費制度」 −(社)大阪聴力障害者協会 清田廣会長

 (1)介護保険と比べた支援費制度の問題点

支援費制度 介護保険制度
・応能負担(所得等に応じて自己負担)
・扶養義務者(家族等)にも負担がある
・応益負担(1割自己負担)
・市町村の担当職員
・施設では、人件費が手当てされていないので雇う余裕がない。
・専門職としてのケアマネージャ
・既存のホームヘルパーに簡単な研修を受けさせ転用しようとしている。 ・ホームヘルパー制度の確立。
・養成機関も多様化
・額でなく、サービス量を申請する。
・サービス毎に申請しなければならない。(一つ一つ認められるか認められないかが決まる。これでは、これまでの措置制度と変わらない。)
・介護度によって1ヶ月の金額が決まり、その範囲内で利用者がサービスを選択
障害者プラン(H8〜14)の市町村障害者計画は、計画作成60%、計画達成(実施済み)は30%しかない。 ・ゴールドプラン(平成元年〜;高齢者保険福祉推進十ヶ年戦略)、新ゴールドプラン(平成6年〜)、「高齢社会対策基本法」施行(平成7年)に基づき、ほぼ100%の計画達成
・さらに現在、ゴールドプラン21(平成12年〜16年)が進行中
※「障害者プラン」では、「6.各施策の推進方向」の第8「社会参加の推進」の項に「障害者にとって最も身近な市町村を中心に、福祉バスの運行等移動時の支援施策や手話通訳者の設置、点字広報の配付等コミュニケーション確保の施策等障害者が社会参加するために必要な援助を行う事業について、概ね人口5万人規模を単位として計画期間内に実施することを目標として推進する。」となっています。
※この「5万人に一人の手話通訳者の設置」については、「人口5万人あたり一人」という意味ではなく、
「人口5万人以上の市にとにかく手話通訳と名の付く人を設置する」とのことで、1997年4月時点で全国で472市(全国の市の数692市の68%)とのことですから、1985年に示された「手話通訳制度調査検討報告書」の「ろうあ者100名に1名、合計4000人の手話通訳者」との目標にもはるかに及びません。
(参考資料 ; 手話通訳問題研究1996年4月号No58「特集 障害者プランを学ぼう」、季刊みみ1997年9月号No77「特集 「障害者プラン」を考える」)

 (2)障害者ケアマネジメント制度は、実現されなかった!

 (3)支援費制度がろう重複者施設の経営を成り立たせなくする!

 (4)指定事業者としての申請を迷っている大阪ろうあ協会、それでも我々がやらねば!

 (5)福祉を「買う」時代がやってくる!

■4名の方の講演内容は、日本手話通訳士協会からブックレットとして、いずれ出版されますので、詳細はそちらをご覧いただくのが、一番いいです。

7.個人的な感想

今回の研修会は、支援費の研修会ということで、かなり気合い入れて参加しました。

障害者関係の福祉施策が措置制度から支援費制度に変わるというのは、まさに福祉の理念(福祉に対する考え方)の大きな転換点だと思います。
ろう重複施設を持たない県にとっては、聴覚障害関係での影響が比較的少ない(補装具等は措置制度のまま)ためか、僕の周りではあまり危機感が感じられません。

でも、今回の研修で大阪の清田さんが力説されたように「福祉と権利を金で買う時代」がもう間近に迫っているのです。
それは、手話通訳が「利用者負担のない制度」として存在し続けることが、非常に難しい時代がやってくることを意味しているのです。

奥野さんは、”手話通訳に「利用者負担がない」ことが、逆に手話通訳制度の発展を阻害したとも考えられる”と話されました。障害者施策の中で「例外的に」無料化を維持することが、聴覚障害福祉にとってどんな意味を持つのか、今の僕には判断できませんが、奥野さんの言われたように「無料であることの理論化」なくしては、社会的な理解を得られないのは事実だと思います。

そして川根さんが言われた「支援を必要とするろう者」を地域で支える具体的な仕組みと、その担い手の養成が、早急に求められていると思うのです。
川根さんは、「それは、手話通訳者だけでは、できないことだ。手話のできるヘルパーとか、お買い物につき合う手話仲間とか、それぞれの人がいろいろな役割を担って、全体として必要な援助ができる地域作りが必要なんだ。」

僕が今担当している谷和原村の手話奉仕員養成もそんな仲間作りに役立てればいいのかなと、とても勇気づけられた思いを感じました。
支援費制度という新しい福祉制度に、ただ巻き込まれるのでなく、僕らの力で僕らなりのエネルギーを吹き込むことで、必要な支援がキチンとできる制度に育てていくという気概がなければならないなと思います。
手話通訳士協会支援費研修会の様子(全景)
○今回の研修会には、全国各地から積極的な参加があったそうです。 茨城からも僕を含め4名の参加があったようです。
○伝達研修というのか、今回の研修会で学んだことを地域で改めて学習する機会があるといいですね。
○僕は、全通研茨城支部の地域班を県南でも作ってはどうかなと感じています。
 県登録手話通訳者の定期的な学習会はあるのですが、こうした問題は、資格の有無にかかわらず手話に関わる人全てが学ぶ必要があると思うからです。
○そうした意味で全通研は、誰でも(もちろんろう者も)参加できるわけですから、地域班を作って、恒常的に勉強会を開くのは、なかなか面白いのではないかと考えています。
○今、思いつくだけでも、12月の県議会選挙に向けた学習会とか、この支援費制度の学習会。あるいは、新しい障害者プランのこと。それから前から思っているのですが、全通研の研究誌を使った輪読会とか・・・。もちろんろう重複に関する勉強会も、いつか必ずやりたいなと思っているのです。

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