1995.11.19(日)全通研東京支部 頸肩腕障害学習会における川根紀夫さんの講演内容<抜粋>
<略>
事前にいただいた柱なんですが、ちょっと紹介しますと、
1.『頸腕の病気について〜その症状も含めて』ということです。
2つめが『手話通訳者に何故、起きるのか』
3つめに『労災認定されている方、その人数』
4.『病気を直す方法』、こうすれば病気が直りますというのは、私は医者ではありませんので言えないのですが、きっとこんな風につきあったらどうでしょうかという位は話せるかな。患者の家族という立場で少し、整理をしたいと思います。それから、
5つめ『手話学習者がどのような活動をしていけばいいのか』この、どのような活動というところに(サポート)と書いてありますから、健康破壊をすすめない、より健康で働けるような状態で手話通訳者がイキイキとできる、そのために私たちが何をすればいいのかということだろうと思います。
6つめに『全国手話通訳問題研究会の取り組み、対策など』も盛り込んで千葉の現状をお話しいただけたらとあります。
6つの柱で話をして欲しいと依頼されています。
最初に、先程、家族の立場でと言いましたが、うちのカミさんが、専任の手話通訳をやっていて、4年前に、1年と4ケ月入院をして、現在は別居生活をしています。同居して暮らしていくことが、疲労を促進させることにしかならないので、うちのカミさんは一人でアパートを借りて暮らしています。カミさんの大好きな子供達と離れて今、アパートで暮らしているわけです。そういう中で、労災、労働災害保険法に基づく労災の認定請求を行いました。
先月の16日ですが、東京をはじめ全国の皆さんにいろいろご支援をいただいて、署名を送っていただいたんですが、東京から5,000を越える署名をいただきました。全部まとめますと、10万1千いくつかなんですが、16日に労働基準監督署にもって行きました。こんなにいるんですかと労働基準監督署では驚かれていたようですが、お陰様でなんとか先が見えるようになってきたなあという気がしています。まあ、いい正月が迎えられればなあと思っております。特にご署名いただいた方には厚く御礼申し上げます。
あらかじめ、いただいていた順番で話をしていきたいと思います。頸腕障害、或いは頸肩腕症候群、という言葉を聞いたことがありますか?ありますね。どんな病気ですか?漢字で書けますか?ワープロでうっても頸肩腕障害の『けいけんわん』がでてこないんです。頸部ですね、肩、腕が漢字です。それが障害なのか、症候群なのかということで、どうも、関西では、どっちだっけかなあ?症候群と言っていたんだかなあ、関東が頸肩腕障害と言っていたんだっけかなあ。
お医者さんでも言い方がちょっと違う、どっちがどっちだったか、ちょっと忘れてしまいました。
首、肩、腕に痛みがでたり、しびれがでたり、肩こりは、こるんでしょ。痛いという風に訴える人達、『肩が痛い』『腕がしびれる』とか『腕が痛い』、この時期になってくると水道をひねると水がでますね、その水に触れない。『痛い』。冷たいものは、ものすごく痛く感じる。暖かいものは感じない。温感が麻痺する。冷たいものには過敏に反応するというのがどうも、特徴のようです。ところが、首、肩、腕だけでなく、背中もきます。うちのカミさんも随分やせて、今、38キロくらいしかないんじゃないんでしょうかねえ。あの、昔、僕らの世代だったら、ツィギーという外人さんで、枝みたいな人、あの人、歌手でしたっけ?あの位の体重です。かなり減ったんですね、10何キロ落ちています。
その様に、痩せてますから、筋肉の模型図みたいというか、筋の模型図に近いのかな?肉があるのかないのか?昔はもう少し胸もふくよかだったような気もするんですが、正確な記憶があんまりなくて、うちの娘のほうがはるかに大きい。
背中なんかは、どこが痛んでいるかすぐ分かる。背中の筋が腫れている。おしりの中位までは触れません、触ると痛がる。足の方にいくと、ようやく、もんであげても気持ちがいいという風になる。ただ、頸腕は実は、足の方にも症状がでてきて、つまずきやすくなるということがでます。うちのカミさんはずーっと運動靴で、毎日、1万5千歩をノルマにして歩いています。何故、歩くのかというと、足の筋肉が落ちたら、よりつまずきやすくなるからです。
それから今、38キロの体重ですが、40キロまでで止めておこうということにしています。少食療法、1日、800カロリー位しかとっていません。肉食はとらない。どこかの宗教団体ではありませんが、血を汚さないという意味だけでなくて、太らない。要するに、腕に脂がついたら、重くなりますから、上がらない腕がよけいに上がらなくなります。腕が重いという風に言っています。腕が重いという風に自覚をするんですね、きっと。重いなあと感じてきはじめると、手をついているとかいう風にします。
寝るときなんかは、スーッと横になれない。まず、座って、それからコロンと横になって、その動作が大変、時間がかかるわけですね。枕の高さが非常に、微妙でちょっと狂っていても痛いから、あらかじめ、いつものパターンで作っておくわけですけれども、低くなると、上げられなくなる。下がっていると上げられなくなるので、ずーっと状態を保って、箱枕位の高さだと思って下さい。若い人はわからないかな?ちょっと高めのところで、合わせる位置も決まっている。ちょっとズレると痛くなるので、直さないといけない。その位、首というのは痛くなる。人様に触ってもらうと、もう大変なことになる、痛くなる。というのがまず、肉体的な状況です。
それから、精神的なところですが、うちのカミさんがアパート生活するしかなくなったというのは、1つには音がダメだということです。音を聞いただけで反応してしまう。筋肉が勝手に反応する。それから、うるさくて、耐えられない。子供達は元気がいいのでワーワーキャーキャーいうわけですが、それで随分パニックをおこします。子供の声でもパニックを起こすわけです。TVの音なんかもっとダメです。CDもだめ、どんな音楽を聞いても心地良くない。音からできるだけ離したい。全く音のない世界へ、というわけにもいかないので、音からはなしたいということ。それから、人の話しからも少し離しておかなくてはいけない。ということが最も大きな要因になって今、アパート生活をしているわけです。
家族と暮らすということが、そういう意味ですごく疲れる。ものすごい疲労になってかえって本人にはマイナスになる。だから僕は、毎日、通い夫として、本当に病気になってから、初めてこんなにカミさんと2人きりの時間をいっぱいつくっているなあ、毎日、1時間くらいいるわけですが、結婚前もあわせて、そんなに一緒にいたかなあ?1日、1時間ですと、1週間に7時間でしょ。僕は殆ど彼女と一緒にいますから、2人でいるのはこんなにいいものかと思うのと、2人でいるのはこんなにわずらわしいものかと、いろいろ味わっているわけですが、そうやって、1人の生活を今、しています。
ようやく、最近、料理ができるようになりました。ものが切れるようになった。ものによるんですよ、カボチャはとても切れませんが、包丁のもち方を工夫しました。包丁は普通はどうやって持つんですか?多分、握りでストンと落とすんですね。引く包丁、押す包丁とありますが、彼女はここを使って落とすようにしました。ちょっとずれると痛いということになるので、彼女は独自に、ここを使う持ち方を工夫して、今、切りはじめています。大根、芋は大丈夫です。人参は太いところはちょっと厳しいです。なんで、厳しいのかというと、握力が今、4〜5キロ位です。自分の握力を知っていますか?(会場から「40キロ!」) 女性で? すごいですね。握力があるというのは、すごく良いことですね。ないよりは良いことですね。(会場から「35キロ位!」)家事労働に必要な握力は何キロですか?20キロ位と言われています。
自分の背筋をご存知の方は?(会場から「147キロ!」) 147キロ?すごーい!!そうですか?
家事労働に必要な背筋力の倍以上をお持ちの方ですから、きっと、家事労働を2倍こなすんでしょうかねえ。まあ、それは別として、その位、必要なんですが、うちのカミさんは8とか9キロ。よく考えてみると、背筋を測る機械は手が握れないとダメでしょ、それから背中で引っ張らないといけない、多分、痛みだとか、その握力との関係ではないのかという気はしますが、頸肩腕の1つの目安は握力が落ちてきているかどうか、背筋力があるかどうかです。これは大きな目安になります。そういう握力・背筋力の中で彼女は暮らしている。
手の上がり方ですが、今のところ、ここまでですね、上がるのは、これで何に困るのかというと、洗濯です。この前、肉ばなれをやって、その肉ばなれをやったというのは、洗濯ものを干していて、雨が降って、慌ててしまった。つい手を上げてしまって肉ばなれになってしまった。
筋肉が病んでいるから、よけい肉ばなれとかを引き起こしやすい。要するに筋肉が疲れきっているわけですから、肉ばなれを起こしてしまう。彼女が編み出した方法は、クリーニング屋さんのワイヤーのような、安っぽいエモンカケに全部、通す。ズボンもそれに通す。落ちそうなものは洗濯ばさみで止めておいて、端っこを持って、ハッと背伸びをして引っかけるというやり方で今、やっています。だから、工夫しながら、いろんなやり方を編み出しながら、やっているという点では、非常に、障害と上手に付き合っているなあと思うわけですね。
すごく、熱いのは感じなくて、寒いのは敏感に感じる。過敏だって言いました。今年の夏もすごく暑かったんですが、彼女は全然、汗をかかないんです。今、20分浴、それから、フルコースの温冷浴を、毎日お風呂でするわけですが、正式な温冷浴のやり方を知っていますか?ちゃんとした方法があるので、後で調べてやってみたら良いと思うのですが、その温冷浴が出来るようになったんです。最初、水をかけたらビリビリビリビリして、温冷浴をやったら、その後、何も出来ない、ひたすら、横になっているだけ、同じ姿勢を保っていると痛くなるので、また、起きてしまうということになるのですが、その温冷浴をやって、20分浴です。お風呂に20分です。それでも汗をかかない。ところが人に会うと、汗をかくんです。相手が僕の場合は大丈夫です。子供達も大丈夫です。うちのジジ、ババも大丈夫です。それ以外の人は全部ダメです。僕がカミさんと、ずーっと付き合っていたころから一緒にいた僕の仲間なんかもやっぱりダメでした。ものすごい長い付き合いだった人でしたが、ダメでした。それからPTAで一緒にやっていた人もダメでした。勿論、ろうあ協会の仲間たち、手話通訳の仲間たちもダメでした。
1度、2年位前に、街でバッタリと知り合いの福祉事務所の人と会ってしまった。彼女が1人で街に出たときです。運悪く、福祉事務所の人は心配をして、いろいろ声をかけてくる。それでパニックになってしまって、どう帰ってきたか、全く覚えていない。そういうことがあったり、その時には汗をびっしょりかいている。すごく緊張している。人に会うことによる緊張。どんなに暑くても汗をかかない。うちの娘と一緒にサウナに行かせたことがあるんですが、サウナでもほとんど汗をかかない。それで、娘が倒れたら大変だと、心配して、途中でサウナから引っ張り出す。そういう状態になってきています。これは今のカミさんの状態になるわけですが。
元々、手話通訳の作業ってどんな作業ですか?手を使う。僕もずーっと、病院の先生たちに手話通訳の作業とはどんなものかを理解してもらいたくて、ビデオをずーっと見たりしていたんですが、うちのカミさんが、千葉の母親大会、全国の母親大会の時の通訳をやっていたんですが、僕もその時、通訳をやっていたんですが、2人の手話の違いを見ていたら、カミさんは背が小さいわけですね、あの時は、1万数千人位の会場で、大きな手話をやっているんです。僕は普通にやっていたんですが、彼女は必ず肘が浮いている。いつ、どんな時でも、肘の浮いた手話の使い方をする。その状態で、こうするというのは、きっと『前へならえ』の状態を彼女は20分も30分もやっているわけです。『前へならえ』を20分も30分もやるというのは、ものすごい動作です。これを静的疲労といっています。静かな筋肉の使い方、そういう疲労だけれども、静的な疲労というのはものすごく取りずらい疲労です。これを20分やってろと言われたら、これは苦痛ですよね。たまたま、手話という動きがあるから、何とか持ちこたえている。こうしていると、僕も肩がつらくなりますが、『前へならえ』を続けている動作だという風に考えていただければ、筋肉疲労という面ではわかりやすいかと思います。僕もカミさんが病気になってから、初めて前へならえというのは、拷問なんだなと気が付きましたが、すごく大きなというか、静かな筋肉の使い方ですが、大変な、筋肉には負担の大きい動きになっているということが分かりました。
脳ミソの方は、瞬時にいろんな脳ミソを働かせなければいけない。脳ミソはそれぞれ、分野別に分かれています。自分の頭の中の脳ミソは、この辺に言語野があるとか、視覚野がこうだとか、聴覚野がどうだとかと分かれているわけです。
手話通訳の仕事というのは、聴覚野で行います、聞いてそれを手話に変えようと思ったら、聴覚を通じて聴覚野に送られて、それを運動に変えるわけです。運動野に送られて、手を動かしなさい、顔をこうしなさいと運動野に送って初めて手が動いて手話になるんです。外国語の通訳の場合には、大半が脳ミソの使い方は、言語野だけで済んでいます。
一般の仕事で、頭の領域を全部使うような仕事というのは、他にはないなあと、よく医者から言われています。こんな過激な労働が今まで、日本にあったんだという風に言っていました。手話通訳の労働は大変な労働なんだと、そこで初めて知るわけです。そういうように、発言をしたのは、日本の頸肩腕障害では権威と言われている、中村ミハルという先生です。もう、40年くらい、頸肩腕の研究をずーっと、している先生ですが、この先生が「初めてだ!」と、「こんな脳ミソの使い方をする労働は、見たことがない」と言っていました。そういう意味では、精神疲労が非常に大きいのだと言えるのかも知れません。
日本のと言いましたが、実は世界的に頸肩腕の研究が進んでいるのは、日本です。世界でトップです。頸肩腕という、病気に対するアプローチ、それから経験というものも、日本の医学が最先端です。しかし、うちのカミさんの様子を見ていると、休むということが治療になっています。安定剤というものが出てきます。それから患者さんによっては、睡眠薬がでたりします。うちのカミさんも、大体、1日に4時間、寝れば良い方じゃないでしょうかねえ。不眠がつきまといますので、睡眠薬がでてきたりしますが、世界最先端の頸肩腕治療の我が国においても、疲労そのものを取り去るというのは、実はないんです。
日本が最先端だというと、普通は『えっ』と思うんですが、よく考えると、外国では頸肩腕障害になる程、重くなるまで放置していないということです。大体、アメリカなんかだと、手根管症候群、手の根っこの管ですね、大体この範囲での言い方です。頸肩腕という風にはならない。それから、腱掌炎とか部分的なものというわけです。外国にも頸肩腕障害があったということが報告されたりしていますが、日本の労働者で頸肩腕障害になっていない、労働、職域というものはないんです。ほとんどの仕事・職種に頸肩腕障害が発生します。それが、外国にはなくて、手話通訳にやっと出てきた。
その中村先生いわく、『そんなもん、外国だったら、ここが痛いと言った時にはもう休んでいる、日本の労働者は「ここが痛い、ああ、私はだらしないわねえ、もっと頑張らなくちゃ」と思って頑張るから、こっちが痛いまま、こっちも痛くなる。「なんて私も年を取ったのかしらー」と言っている間に、こっちも痛くなる。どんどん大きくなって、取り返しがつかなくなるのだ、それが日本の労働者の実態のようですねえ』という風に言うわけです。
ベルトコンベアーで流れ作業をやっている人達にもあるし、保母さんにもあるし、ピンとこないのはスチュワーデスです。スチュワーデスの頸肩腕障害はとっても多いです。それは何でそうなったのかと言うと、ジャンボ機の登場とともに、頸肩腕の発生がグーンと大きくなる。どうも、プレートに何かをのっけて渡すのが、ジャンボ機になると真ん中の列が遠くなるのだそうです。グーっと出す。それもこぼしたらいけない、手前には別のお客さんがいる。緊張感とともに送っていくというのは、ものすごい疲労を生み出すんだそうです。
もしかしたら、緊張というのが、実は短時間な緊張であっても、ものすごい疲労を生み出すということになるんでしょうね。手話通訳をやっていて、初めての頃です。私は初めて舞台に立って手を動かしました。終わったら、グラーっと疲れるんですね、2回目、3回目になって少し、厚かましくなったのか、慣れて来た、初めての時よりは、ちょっと疲労が少ないというようなこともあったりすると思うのですが、それは多分、緊張のなせるわざかも知れない。緊張というのは、より多く働かされる。同じ5分でも緊張した5分と、リラックスした5分では疲労が全く違うということが、スチュワーデスのジャンボ機のあれからよくわかってきたんですが、手話通訳の作業はずーっと緊張の連続です。
聞いたら、『これは、こういう意味だな』とか、『話の下手なヤローだな』と思いながらも、言葉を置き換えるという持続した緊張をする。そのことが脳ミソの疲れを生み出す。普通は、肩がこったというのは、どういうサインですか?今、やってて肩こりがしてきたら、普通はこれは『もう、止めろ』という風に、体が訴えているわけですね。私は疲れたんだよということを肩こりで訴えているんです。その肩こりで訴えているにもかかわらず、脳ミソの方は『もっと、頑張れ!!』と手を動かしていくわけです。車で言うなら、ブレーキを踏みながら、アクセルを踏んでいくんです。ですから、車がおかしくなる。体がおかしくなるという風になります。
不幸なことに家のかみさんが入院してから4年たって、まだ握力が4とか5とか、回復の兆しを見せません。先生からは「10年くらいかかるだろう」といわれています。それは普通の家事労働が出来るくらいになるまでにという意味です。精神的にはどこまでどういうふうに回復できるかは一寸分からない。というのは脳ミソの疲労ほど取れにくいものはないんだそうです。痛みだとかいうのは癒えてくる。これは必ず癒えます。ただ脳ミソの疲労というのはどのくらいどうなったらどういうふうに取れていくのかというのは、実ははっきりとしたデータがないと言われています。なかなか本人にはそうは言えませんけれども、先行きはすごく不透明だということになりますね。こういう仲間たちが全国でものすごくたくさんいます。
ちなみにこれ、全国の手話通訳者健康調査。
肩が痛い。肩が凝るじゃないですよ、肩が「痛い」。こういうふうに訴える人ってあんまりいないはずなんですが、女性で公務員で、週5日以上勤務している者、これ45%以上です。肩が凝るじゃないですよ、肩が「痛い」という人の割合です。日本の手話通訳の内週5日以上勤務している女性の通訳者の半分近くの人が肩が「痛い」というのです。それから団体職員で週5日以上勤務している女性の方、「肩が痛い」46.9%です。それから週4日以下勤務で職安以外に勤務している女性ですが、これでも33%です。普通は肩が痛いという症状を訴えることはないんです。肩がこるということは一般的にみんな「こり性」だというふうにいいますが、痛いというのは本当に痛いんです。
日本の手話通訳者の内3割位は非常に危険な状況にあると見ていいと思います。平均的に3割から4割の人たちが痛いと常に感じている症状だと思うんですね。体が「もう、休め」と指令を出している人たち。そういう調査結果が出ています。
もっといっぱいある項目の中で一つだけ抜き出しましたけれど、日本の手話通訳者のうち3割は、まず休まなきゃいけない人たちだと考えていいと思います。これは筋肉の疲労、脳の疲労がだぶって出てきているのだというふうに考えていいと思います。
この間、実は9月の中頃でしたか。労働省で頸肩腕障害が起こりやすい作業ということで報告が出ています。その中に手話通訳作業というのが初めて入ったんです。ほかにキーパンチャーとかいろんなの、あるんですよ。で、流れ作業だとかいうのがあるんですが、手話通訳作業というのが入ったんです。これは全通研なんかを中心とした全国的な頸腕をめぐる運動の結果だと思うんですが、僕も一寸不思議だなぁと思ったのは、労働省の職業分類、職種がいっぱい書いているのありますでしょ、あの中の手話通訳というのあります?無いんですよ。無いんだけれども手話通訳作業というのが、初めて頸腕を引き起こしやすい作業だということを労働省が認めました。そういう意味ではそのうち職種にも入ってくるのかもしれませんが、やっと仕事として認めるんですかね。仕事として認めたから実は全国でも労災の認定がおりているわけですね。ただ、労働省は職業分類の中に手話通訳というのを入れていなかったというだけです。入れていないまま、頸腕が引き起こされやすい作業だといっていました。かなり全国的な取り組みが労働省を動かしたんだなぁという気がします。
頸肩腕障害というのは、1960年くらいにキーパンチャー、パンチャー病というふうに呼ばれたやつですよね。その後60年代以降、もの凄い広がりをみせているんです。頸腕の仕事を調べていくと、何でこんな仕事にまでというのが出てくるわけですけれど、高度経済成長と共にね、健康を害していく、疲労という形のものが蔓延をしていくわけですが、中村先生の原稿なんかを見ると、外国語通訳でも10分で交代する。同時通訳なのか、どうなのかとか難しさのものの違いはあれ、10分くらいで外国語通訳は交代するとふうにいわれている。「何で日本の通訳者は1時間も2時間もやってたんだ?」という指摘を受けました。
「あんたら、異常な人格だ。」非常に口の悪い先生ですから、
「そんな奉仕の精神だけでやっていて、体を壊したら聴覚障害の人たちがもっとつらくなる。日本の貧困さはそういうところに集約して現れてくるのだ」と、「通訳が自覚していないからだ」と。指摘をされるわけですね。普通の労働者はそこまでやらないんだよと。
でもよくよく考えるとそんなことはない。日本に過労死、死ぬまで働き続ける人もいるわけです。なぜそうなるかというのは非常に難しいんですが、命と引き替えにしてまで働いてしまう風潮というんですかね、そういうものはほかの労働者にもある。そういう意味では日本の労働者は異常な労働者なんだというふうになるわけです。普通では考えられない。だから外国で過労死という言葉が無いというふうに、新聞なんかで出ていますように頸腕も同じようなことです。
昔、日本でいうと総理大臣の話を書き取る人、一番最初ギリシャに、羽のペンかなんかもって、偉いさんのしゃべったことを一字一句間違えなしに記録を取る人がいたんです。その人の頸腕がもっとも古い文献では出てくるのだといっています。あれは緊張が持続する。「間違ったらいかん。」という緊張が元なんだろうと中村先生は言っていましたけれども、日本で大きく問題になったのは、電話交換手。あれは1日中、こうやっているわけでしょ、肘を状態から浮かしてる、空中に浮かしてやっている。それからキーパンチャー流れ作業となったりするわけですが、後、速記者にも起こっています。
一つには疲れを引き起こすということが最も良くないのだと。なおかつ、疲れをとる時間がない。疲れをとって翌日元気に目覚めよく行く。この中に朝の目覚めは爽快ですという人はいますか?偉い!一人いましたね。何十分の1かという。普通は疲れがとれていれば、ぴっと起きられるわけですね。すごく快調に起きられるわけですね。きっと日本人はみんなくたびれ果てているのかもしれませんが、殆どの国民が疲れているのだという説があります。9割方疲れている。健康調査をする。疲れという点では日本人の9割は疲れているんだとか、6割は疲れているんだとか、いろんなことを言う人たちがいますが、共通しているのは、日本人は疲れている。それから風邪を引きやすい人が増えた。年がら年中一つの職場で誰かが必ず風邪を引いている。風邪を引くというのは抵抗力が無くなっているから。抵抗力が無いというのは要するに疲れが元なんだというふうにいうわけです。通訳の人たちも殆ど風邪を引いている。1ヶ月か2ヶ月もそのままずるずると長引く奴というのはいっぱいいる。
そういう形で健康破壊が一方で進んでいて、頸腕にはならなくても実は疲労の蓄積というのは、ものすごくされているという人たちがいるわけです。その人たちは予備軍です。
頸肩腕の健康診断に行ったことのある人、この中にいますか?一人。頸腕の結果はどんなでした。AとかBとか1度とか、2度とか。もし差し支えなかったら教えてください。「会場答え…一番下から2番目。」
一番下って一番悪いところから2番目ということ?
「会場答え…いいところから。」
いいところからね。悪いところが上に行って一番下から2番目というのは、手話通訳の頸腕でね一般に私たちが言っているのはB1ということなんだと思います。
Aというのは普通です。筋力だとか向地性だとかいうのが普通です。B1というのは先ほど言われた。うちのかみさんはCです。もっと悪い人もいるんですね。もっと悪い人もいる。Dになったら頸腕はこれ以上悪いのはありませんから、これは末期ガンみたいなものです。B1というのは軽度です。軽度頸腕だということになりますね。
どういうことに気をつけなさいと言われました?
「会場答え…何も言われない。」
何も言われないですか。軽度の人はAにもなるしBの2にもなるんですよね。Bの2にならないためにはどうするかということですね。今までと同じ生活をしていたらBの2になる可能性が高いわけです。そうですよね。今までと同じ生活、今まで送ってきた生活で自分はBの1ですから、同じ生活をしていったらもっと疲労は蓄積する訳ですから、Bの2になりますよということです。検診ってそういうことでしょ。どっかで改善しなきゃいけませんよというのがこのBの1。軽度ですがどこかで改善をしてください。これを中度と読んでいいのかな。一寸はっきりしませんが。(*板書Bの2とC)
Bの2というのはかなり症状が出ていますということです。かなり症状が出ている人で、この人たちは仕事の仕方をもっと工夫しなくてはダメですよという人たち。夜の仕事はやめなさいということになります。夜というのは基本的に休息の時間。人間の体の生理からいうと休息の時間ですから、夜講習会に行くのはやめましょう、サークルに行くのもやめましょう。飲みに行くのはたまにはいいかなぁということになるのかな。普通は連続通訳を制限したり、夜間の通訳はしないとか、夜間の活動はしないというのは、このBの2の範囲です。
Bの2の人は限りなくCに近い人もあるし、限りなくB1に近い人もあるわけ。Cというのはうちのかみさんの症状です。うちのかみさんはCだといわれたんです。Cの人はDに落ちます。
うちのかみさんは入院する前は握力が15、6だったと思います。それが入院して1週間したらど〜んと落ちて、最悪の時は0.いくつ。1にいかない。最初の2、3日はるんるん気分のようでした。すべてから解放されて、上げ膳据え膳のところにいて解放されていたんですが、そのうち症状がどーっと出て来ました。入院したら悪くなったと思ったんですね。そうじゃない。今まではブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいた。それがまだ続いていた。アクセルを離してそしてようやっと車を止めてみたら大変な状況だった。その人の持っている本来の姿が浮き彫りにされたんです。今やっている姿というのは実はブレーキを踏みながらアクセルを踏んでいる異常な姿なのかもしれない、ということも問われるわけです。その時にかみさんはCだといわれています。
全国で60人くらいですかね。あの時、調査対象が500何人かいて、垰田先生がすぐに休めって手紙を出した。垰田先生というのは滋賀医科大学の手話通訳者の頸腕の世界的権威だといっていいのかな?いいんだと思いますが、彼が60人くらいに手紙を出した。もう休みなさいって。そのうちの一人がうちのかみさん。そうすると1割を越える人はうちのかみさんのレベルだということです。そのくらい酷使された仕事の仕方しか出来ていないのが日本の手話通訳者だということになります。
これ、何が大変なのかというと、いっぱいありまして。これはこの間、労働基準監督署に出した、自己意見書。それからこれは千葉県の手話通訳仲間が補足証拠として提出した膨大な、これ何ページくらいあるんだっけな。264ページに渡る補足証拠を千葉の手話通訳者の人たちがまとめました。中にはある市役所の関係者もいます。そこの市の手話通訳制度を作るときに薫さん(頸肩腕患者である川根さんの奥さんのお名前;木下注)に、どのくらい来てもらってどういうアドバイスを受けた。そのためにどういう学習会をやったということをまとめて、そういうことも手話通訳者の仕事なんだという提供したり。いろんなものがくっついています。手話通訳者の仕事ってこんなに広範囲だったかなと改めて思ったりしたんですが。
たぶん田舎に行けば行くほど1人何役もやるということになるんでしょうね。田舎に行けば行くほど手話通訳の数が少ない1人何役もやる。相談員の仕事をやってみたり、コーディネーターの仕事をやってみたり、指導員のしごとをやってみたりとか。雑多な仕事をしているんだろうなと思います。
自己意見書の中で紹介だけしておきたいなと思うんですけれど、生活のところの方のかみさんが言っていること。全部かみさんが作っているわけではないんですが、彼女が言っている生活上のこと。
・最初の頃は自分の身の回りのことを一番に省くようになる。
・着るものがワンパターンになる。
・パーマ屋もずっと行かない。
次に夫の世話が出来ず任せっぱなし。俺、あんまり世話してもらった記憶ないんだけど、世話が出来ずに任せっぱなし。うちの夫婦関係がよく分かるでしょ。
それから食事のメニューなど、仕事時間が終わっても切り替えがつかず、計画的に週メニューになる。
・日々のメニューもやっとだ。
・買い物も手伝ってもらうことが増える。
内容もある時期似たようなメニューの繰り返しになってしまう。
少したつとまた別のメニューが頻回といったようになる。
・家へ帰り子供たちや父母の話しかけに「待って」「後で」が多くなり聞いてやれなくなる。
・音声が不快になり、元気な子供たちの声がうるさいと感じ、言葉に出してしまって気付かずにテレビ、ラジオ,CDのスイッチを切って回り、家族にいわれあっと気付く。
・冷たい水が手に痛く、洗濯など秋になるともう温水でなければ出来なくなる。野菜を洗うのもぬるま湯で洗うんです。
・家にいてもいつも忙しい気分でせわしなくいらいらし、つまらないことで夫に当たることがある。これはしょっちゅうです。
・電話がかかるとベルの音だけでいやで電話をとらず、ほかの家族にその応対を押しつけるようになる。
・父母と話すのが辛く、まずこちらからの話しかけは必要最低限に減り、話を聞くのもやっと。出来れば目を合わさずにいたい気分になる。
・少しでも暇が出来ると職場から出たいと思い、家へも戻らず公園などに車を止めぼーっとしていたり、居眠りをしていたりする事が出てくる。これで保育園のお迎えに後れて結構あせったことがあるわけです。
・夕食後など通訳手配や事務処理など家での持ち帰りの仕事があり増えていく。
・家族とゆっくりかかわる時間が無く、必要最低限のことのみを言うようになり、相手にも「早く早く」等と促すことが多くなる。いけないと思いつつ。
・洗濯物など自分では気付かず、少しずついつの間にかだが、物干し竿にかける前に下の方でつるし、最後に背伸びをして、痛みを感じながら物干し竿の高さに持っていくようになる。
・濡れた洗濯物が冷たく、手、指から首筋、頭までびりびり走るような痛みが出てくる。 手が上がらない。
・どんぶりなど重い物は意識して手を付けるが茶碗、湯飲み、コップなど手からするすると抜け落ち、壊すことが多くなる。自然に底に手を添える習慣が付く。
・休日も家にいると電話・来客が気になり落ち着かない。
・布団の上げ下ろしが出来ない。
・歯磨きが辛い。
というのが彼女の生活上のことです。仕事上のことはもっといっぱい他にも出ていますが、自己意見書の中に出ています。歯磨きがすごく辛いみたいですね。手がくたびれちゃう。歯磨きをした後はとてもじゃないけど、作業が出来ない。
ここで少しお休みしましょうか。疲れたよね、こういう深刻な話ってやだね、疲れるね。 −−−休憩−−−
いっておきますけれども、一つは筋肉の負担。筋動作。これは手話の動作にはつきまとう。それから脳味噌を働かせなければならない。瞬時に全部の脳味噌を使う。見ること、聞くこと、話すこと。これをすべていっぺんに使っていくというのが特徴です。それから姿勢の問題です。PTAの通訳にいったときに机がありますから、机にこうやって(肘をついて)手話をやったら楽だろう。そうするとすごく見栄えが悪い。とても手話通訳という人がそんなふしだらな格好をしてというふうになるわけです。大股広げて楽してやっているわけにはいかないわけです。きちんとして足はそろえてとなる。僕はあまりしたことがないんですが、どうもそういうふうに見られやすい。どうもきちんとしてないといけない。それは姿勢が拘束される。嶋田さん(当日の通訳者)は足がぴったり閉じてますけれど不安定ですよね。
こうやって足をそろえて立ってるってものすごく不安定です。上体は動かしていて、下は細いわけですから。一寸足を開いてやった方が安定をする。けれどもその場所から動けない。姿勢が拘束されるということです。
それから自律的な仕事じゃない。他律的。 他律性の強い仕事です。自分の好きなことを好きなようにいう訳じゃないでしょ。僕は好きなことを好きなように言ってるわけです。でも彼女は僕の話を正確に他の人に伝える。自分の意志は入らない。そういう意味で自律性のある仕事ではない。常に貸し頭みたい。自分の頭をフルに活用して人の頭を伝える。貸し腹とは一寸違いますが、あまりいい言葉ではありませんが、貸し頭。自分の頭を人の頭にする。もちろんベースにあるのは自分の頭ですが、自分の価値観だとか、物の見方がずーっとあるんだけど、それと違うこと言われてもそういうふうに言わなければならない。「何だ、こいつ」と思ってもそういうふうになるわけです。そういう他律的なものです。
それから電話通訳。手話サークルにいる人たちはよく喫茶店でよく電話頼まれたりして。そうすると、こうなる。この姿勢を見ただけで頸腕の専門家はもう駄目だっていうわけです。でも俺たちは全然そういうふうに思わない。知らないときはこうやって、一生懸命やっているわけです。こんな不自然な、人間工学的には考えられないような格好をして通訳をするなんて何事だと言われるんです。僕らは無知ですからやってしまうんですね。そんなことをすれば、そんな不自然な格好をしてやるからそうなるんだと言われるわけです。 外国ではヴァイオリン弾きの頸腕があります。よく出ているんですね。日本人は出ているのかな。外国ではヴァイオリン弾きの頸腕が報告されたりしています。
脳ミソを使うという中身ですが、神経経路の使い方なんです、実は。すごく、精神病かいなと思うときがある。けれどもそれは精神の病気ではなくて神経の病気。僕もなかなか理解できない。精神と神経とどう違うのかと思ったり、なかなか理解できない。
医者曰く神経の病気です。自律神経失調症。これは頸腕に必ずついてくる病気。頸肩腕障害、自律神経失調症。常に他律的な仕事をしているから自律神経がやられるのかなと、ど素人はそう考えます。
それから、かなり、神経を使うレベルが高い。高次レベルなんだといわれています。それから同時通訳をしているときに判断時間。瞬時に判断をする。それからもう一つは精神的な緊張。一概に通訳時間を何分やったらいいかということはなかなかいえない。ものすごく緊張を強いられる通訳場面があるだろうと言われるんです。
僕は1度、旦那の浮気のことで行った通訳ですが、そこに家族が集まって、すごい緊張するわけです。そんなとこにできれば行きたくないわけです、そんなどろどろとした話。だけど、両方の家族がよってきて「もう、おまえは・・」とやるわけです。すっごい疲れる。でもそんなとき二人も三人も通訳は行けないわけです。1人で3時間も4時間も夜中までやって話し合いして、帰り車の中で「疲れたな〜」といって帰ってくるわけです。そういう緊張というものがすごく大きいのだというふうにいわれています。
ところが最近関東では、東京の新橋にある芝病院という医療機関が非常に優れた…
<中略;記録を紛失しました。スミマセン>
…家庭の時間が必要だとか、私は明日休むとか。休むのも病気のときしか休まないんじゃなくて、映画を見に行ったり、お芝居を見に行ったり、コンサートに行ったり、山に行ったり、海に行ったり、スキーに行ったり。年間、そういうやつで、どれくらい遊びます?
「会場回答 ; 私は多いほうだと思います。」
多いですか。
「会場回答 ; 年休はしっかり消化しています。」
病気で有給は使わないんですか?
「会場回答 ; 使います。」
先月映画を見に行った人いますか?
一人。二人、これで四人になりましたね。では、先月じゃあ、何にしようかな、芝居を見に行った人?重複1。いい生活してますよね。最も人間らしい文化的素養に触れていく、ま、中身をどういうものを見たかってというのは、ストリップなんかを見ていて、これが文化的かどうかという問題はあるわけです。
「会場回答 ; 山も行きました。」
山も行ったの?いいなぁ。俺も何年も映画なんて見たことないですね。
それからどっかに土日行くと、大体、こういう学習会の会場に直行して、夜になると交流会と銘打って酒を飲むわけです。大体午前様ですよね。12時過ぎてからホテルに帰って、寝て、翌朝9時には始まる。アルコールが抜けるようにと思って必死にお風呂に入る。で、次の日の学習会が終わったら、すっ飛んで家に帰る。なんでわざわざこんないいところに来たんだから1日くらい遊んで帰ればと思うわけですが、そんなことは一切なくなっちゃうんですね。ひたすら早く帰る。ゆっくり時間ぎりぎりについて、ひたすら早く帰る。という生活になっていく。それが日常生活も、ほとんどそのパターンになる。
だんなと二人で出かけたことあります?最近。あんまりないんですよね。だいたい手話学習者は子どもとはよく出かけるのかな?そんなことはない?手話学習者は、「だんなは最近やっとあきらめるようになってきた」だとかさ、話を聞いていると「家のだんなうるさくて」とか、大体、あのー、だんなはうるさい存在か、自分の活動をあきらめた存在か。すごく排他的夫婦関係ですね。それは自分自身はそれほど文化的生活をしていないということなんだと思うんです。
手話そのものが文化的だというふうに考えるかどうかは別として、手話そのものに文化性を持ち込むというのはね、いい音楽を聴いたり、いい映画を見たりとか、いい芝居を見たりとか、いい山へ行くとか、いい人間関係があるとか。そういうものが根底になかったらなかなかそういう文化的素養を元にしたね、通訳活動ってできないんじゃないかなと思うんです。なんか、通訳見ていると、せこせこ、せこせこ忙しそう。「そんなやつに安心して自分の暮らしは任せられない。」と、僕がろうあ者だったら思うだろうなと思うんです。なんか時間を気にしているとか、たった、たったっと走ってきたとかさ、「余裕の無いやつだなぁ」と。おまけに年がら年中どこに行っても顔を突き合わす。いやな世界だね。
そういう人たちにね、やっぱり、あんたが居るから聴覚障害者生きているわけではなくて、通訳がいない時も聴覚障害者の人たちは生きていたんだよね、たくましく、たくましく。だから多少通訳の質が落ちようが、通訳、断られる日があろうが、聴覚障害者の人たちは、次の制度をちゃんと作り上げる力量を十分持っていると思います。
昔と違うのは、これだけたくさんの手話学習者がいるわけですから、聴覚障害者だけでがんばらなくて済む。手話通訳制度も何にも無かった時に、聴覚障害者の人たちが主流ですわ、数の上でも。その人たちが作り上げてきた通訳者です。手話をこれだけ多くの社会に広めていっているわけですから、今聴覚障害者の要求に共感する人たちの数は、昔とは雲泥の差。ですよね。次から次へと、今こけようが何しようが、制度をさらに充実発展させていく展望はあるわけ。それでは僕は、今こそ、手話通訳の人たちは自分の暮らしの点検をして、きちんと権利主張するべきだと。言っている自分はできてるかと問われると困るんですよ。困るんです。権利主張をすべきだと思うんです。
なんで、夜私は働かなければならないのか? そういう主張をすべきなんです。
それから、昼間の労働時間、これは中村先生曰く、「1回の通訳時間は大概20分間くらいかな。これは僕の印象だけど、脳ミソの使い方とか、筋肉の使い方とか含めて、1回の通訳時間は最大20分。次に20分は完全にお休みしなさい。そばにいて話を聞いているなんてことは止めなさい。話を聞いていたら休みにならない。そして次の20分に話を少し聞きはじめたら。」というんですね。「それで1日せいぜい5時間か6時間です。日本の8時間労働制には、なじまないということだよ。」というんですね。そういうふうに医者が言ってるんだから、派遣協会は1日5時間労働制を主張してもいいんだよね。拍手してても変わらないので、ちゃんと理事者と向き合って。1日私たちは5時間労働制、なおかつ1回の通訳時間は20分にしてくださいと。
じゃあ通訳の労働時間は5時間にしますから、残り3時間はワープロとか事務作業をやってください、それはとんでもない話です。それは絶対だめ。事務作業による頸腕だって起こる。千葉に習志野市役所というところがあって、そこの会計課の子が、複写式の伝票、書きますでしょ、あれで頸腕になって、いま公務災害の準備をしてるんですが、その子は耳が聞こえない。手話も使わなければならない。その子にとって最低必要な手話、聞こえないわけですからね、手話を使うというのは当たり前の条件として、で、彼女の労働不快にならないような配置転換をすべきだし、そういうことを見越して職場を考えてやるのが普通だろうということで、今やっているわけです。
事務作業をやったりワープロをやったりというのはもっての外です。5時間経ったら、お休み。寝ているのもいいでしょう、散歩しているのもいいでしょう。映画見るのもいいでしょう。少なくとも夜の手話講習会は止める。どんなことをしても夜9時過ぎたらまっすぐ帰る。酒の時間はぬく。そういう点検が必要ですね。そういうふうにできるように周りで支えてあげて欲しいんです。
それから頸腕というのはすごく大変な病気だということを地域で共通理解をする。みんなが勉強をするということ、勉強して頸腕をよく分かってないと。そして通訳の人を支える。そしてサークル活動でも頸腕が起きないようにする。登録通訳もしかり。生活の点検さえすればこれは絶対に出来る。
それから、なるたけ多くの人が通訳活動に参加する。今まで10人でやってたものを100人でやるとかね。そういう壮大な取り組みも必要なんです。私下手だから、あの人、上手だから、あの人にやってもらってよ。というのは一人の人に集中する結果になるので、とても危険だと思います。
登録通訳ってそういうところが結構あるんだよね。なぜか人のいい人、断るのが下手な人に集中していく傾向がある。電話が来るとすぐ取っちゃう奴とかね。電話が来てもいつも留守電にしてるやつは、そのまましらんぷりして、どうせ緊急のやつが多いわけですから、留守電にしておいた奴は通訳にあんまり出なくてよくて、要するに善意の固まりの人は、登録通訳でも集中してしまいやすい。そういうことをやっぱりなくしていかないと。皆でやって欲しいことの一つです。
後は、ここは東京ですから、東京の通訳者達の権利主張がしやすい環境を、やっぱり作る。権利主張をしないと始まらないと思います。全通研の1割は東京にいるわけですね、会員さん。だから権利主張という点では先進地でなくてはいけない。ものすごいたくさんの会員さんがいるから支える母体が大きい。地方に行くとものすごく会員数が少ない。通訳が一人しかいないとか、二人しかいないとか、そういう所もあるわけです。そういう所の人たちに比べたら、はるかに守ってくれる仲間がたくさんいるわけ。そういうことを東京が現実化しない限り、おそらく地方には広がらない。そういう点では東京の手話通訳の人、周りの全通研の会員の人達、手話サークルの人達の役割というのがものすごく大きいと思う。千葉で労災認定をとる、うんぬんというよりは、ものすごく大きな役割が東京にある。それはきっと全通研の運動にまた、反映されていくと、思うんです。
全通研では頸腕の情報誌を作ったり、頸腕の患者会を組織したり、一生懸命やってはいますけれど、具体的に労働条件を変えていくということをするのは地域ですから。最も変えやすい条件を持っているのは東京です。それは財源的な問題も含めて。一定の財源をどういうことに使うのかということ、それから仲間がたくさんいる。それをぜひ東京で実現をして欲しいなあと思います。
最後になりますが、千葉では今健康を守る会、千葉職業病対策連絡協議会と、手話通訳者ユニオン、手話通訳者の労働組合、まだろうあ団体とぎくしゃくぎくしゃくしていまして、ろうあ団体はなんで組合を作るんだというところがまだ、あるんです。それでまだぎくしゃくしていますが、手話通訳者ユニオン、手話通訳者の労働組合。これは登録通訳者も全員入っています。登録も専任も含めて。僕は二重籍になってしまいます。市役所の労働組合と両方ありますから。それでも一応加入申し込みをして。それから全国手話通訳問題研究会。そして千葉県ろうあ団体連合会。4団体で構成をした守る会です。
今は薫さんの労災認定をやっていますが、この間の集会の時は千葉病院のトレーナーを呼んできて、体のほぐしかたとかね、ハートtoハートにも載っていたかもしれないけど、ストレッチングというのがありますね。こういうものを、いろいろやりました。日常的な健康増進ということも含めて、体操やったり頸腕の勉強をやったり、ろうあ者の人が一番喜んだみたい。うちのおふくろは今だにまだやっている。毎日毎日。「もう、ばあさんだから、やめとき」というと「お前は差別するのか!」って、怒りますけれども、僕なんかよりはるかに真面目にやっています。
手話の世界で、日本で今最も欠けているのは? この間手話通訳士の養成カリキュラムみたいものが全日ろう連と全通研で出来ましたよね。その中に頸腕予防みたいなのあったっけ?カリキュラムに。じゃあ、世田谷の手話講習会に頸腕予防のカリキュラムありますか?
ない。手話講習会が始まる前に必ずストレッチがあるとか、やりますか?やらない。なんでですか?面倒くさい?
ここにこうやって出てきてくれた人(木下注;手話通訳の人のことを差している)も全然ストレッチをやって出てきた形跡は無いんだよね。これ東京支部で頸腕の学習会やりますといいながらストレッチをやってきた形跡が全然無くて、手話通訳をやっているって、本当にこれは頸腕の勉強をしようと思っているのかなぁ、と思ったりして。で、講習会のカリキュラムに入っていない。
今、アメリカでは 頸腕予防のためのカリキュラムがあるそうです。はっきりしたことは分かりませんが、手話の大きさとか、いろんなチェック項目があるそうです。その実習が終わらないと次にいかない。それは出来るようにならないと次にいかない。
アメリカでは「燃え尽き症候群」といいますけれど、この「燃え尽き症候群」に対する研究所って、ものすごいんです。手話通訳者養成のための予算もすごいです。通訳養成の学校に来る人には交通費を払う、手当てを払う。日本は全部自前。その上、日本では通訳の仕事を始めて最初の頃の収入はあまり期待しない方がいい。だんなの収入に頼るしかない。だから日本の手話通訳は女性ばっかり。男が、変な話ですが、男が働くにはとても食わしていけない。千葉では男が何人かいますけれど、だいたい嫁さんの扶養家族です。嫁さん、看護婦さんとか、公務員。
僕は最多収入者ですから、大きい顔してるわけです。でも、大概の通訳者は「お前何だよ、ヒモのくせして、偉そうに」こういういわれてしまうわけです。日本の手話通訳者は殆ど、そう。
自腹で勉強して、通訳になりませんか?って言われて、「はい、私やります」って言ったら、悪劣な労働条件。一方、今やアメリカでは、手話を勉強する人に手当てを支給して、手話を勉強してもらうのだという国の立場です。なおかつ、絶対病気にしないという意志がそこに現れています。ですから 頸腕にならないような手の動き方とかをマスターしない限り次に進めない。そういうこともとても大事です。
とりあえず手話の勉強の前にストレッチをやります。終わったらストレッチでほぐしましょう。ということはしなければ。ハートtoハートを買うとこれも(木下注;ストレッチ運動の一覧表)付いてきますので、ぜひお買い求めいただければいいと思います。
ちょうど2時間経ちましたのでこれで終わります。