活字情報

書籍3

タイトル 「音のない記憶」ろうあの天才写真家 井上孝治の生涯
著者 黒岩比佐子
出版社 文藝春秋
(電話03−3265−1211)
発行日 1999年10月30日 第1刷
読了日 1999年11月
価格 2190円+税110円

読んだきっかけ

成城学園の南口「江崎書店」にて遭遇。
僕はこの江崎書店が結構気に入っている。社宅と反対側の南口にあるのだけれど、品揃えが実にいい。それほど大きな本屋じゃないのに、入って左側奥の文芸書や社会科学系の本棚に行くと毎回必ず買いたくなってしまう本に出会う。
この本の場合は、電車の吊り広告で見かけた吉本隆明の『私なら言うぞ!』を買おうかなと思って立ち寄ったところ、この本が何気なく置いてあるのを発見してしまったのだ。

かたつむりアイコン読後感

実は、まだ読み終わってないのだが、実に面白いのと、この井上孝治氏の写真展が11月28日まで半蔵門のJCIIビル1階フォトサロンで開催されているので、せたつむりをご覧の方に是非その情報も伝えたくて、先に掲載するものです。

井上孝治 作品展 やさしく強く生きていた「あの頃(1959年・沖縄)」

99年11月2日(火)〜11月28日(日)午前10時〜午後5時まで
JCIIビル1階フォトサロン(千代田区一番町25番地) 電話03−3261−0300
 入場無料、毎週月曜日休館日
交通は、地下鉄 半蔵門駅下車4番出口から徒歩1分とのことです。

この本の帯には「ろうあの天才写真家がいた! 緊迫の人間追跡ドラマに感動した。」椎名誠
とあり、僕は最初「椎名誠がろうあの写真家のことを書くなんてスゴイ!」とエラく驚いたのですが、書いたのは黒岩比佐子さんというフリーのライターさんでした。
でも、なかなかイイです。文章も簡潔で私の好きなタイプのルポライターだと思いました。
ろうあ者に初めて出会った「とまどい」も素直に書かれているし、その後の井上孝治さんを取材していく眼も、とても客観的なものを感じました。
読み終わったら、改めて感想を書こうと思いますが、皆さんへもお薦めの1冊です。そして写真展にも是非足をお運びください。
私も絶対に行こうと思っています。

<ホントの読後感>

 いやぁ、メチャメチャ感激しました。通勤の電車の中で読んでいて感動で眼がウルウルになってしまったのは、『どんぐりの家』以来、久しぶりです。
 何がそんなに感動したかっていうと、一言でいうと井上さんの生き方なんだろうな。
 井上さんが写真が好きで好きでたまらないことに、こっちも夢中な気持ちになってしまう。
 そして、その写真が世間に認められて井上さんがすっごく嬉しいと、僕もめっちゃ嬉しい。
 感情移入し過ぎなんでしょうが、アルル国際写真フェスティバル目前に井上さんが亡くなる第十一章は、はっきし言って一気に読めませんでした。ゼッタイ泣いてしまうと思いました。帰りの電車で読むことにしました。
 これは、黒岩比佐子さんの筆の力なのかもしれませんが、僕はそれ以上に井上さんの「生き方」が伝わってきたんだろうなと思っています。
 ふんだんに取り入れられた写真も井上さんの人となりを語りかけてくるように思えた。どの写真も「あったかい」のだ、そして「躍動感、いや生活のリズム」みたいなものが伝わってくるのだ。写真集『あの頃』のあとがきに次のような言葉がある。

 占領下の沖縄は、広大な米軍基地、小高い丘にある芝生に囲まれた米軍住宅、そしてドルを使う生活、そういったものを見ると、同じ日本人として胸が痛みました。しかし、市場や通りは活気に満ち、行く先々の皆さんは大変に親切で、子供たちは明るい笑顔で迎えてくれました。大きな荷物を軽々と頭に乗せて運ぶ女性たち。子供たちの素晴らしい笑顔。米軍の毛布を着物にしていた糸満の漁師。ドルやセントで表示された食堂のメニュー等々。街は被写体に溢れていました。思えば当時は、博多には博多の臭いがあり、沖縄には沖縄の明確な臭いがありました。
 豊かではなかったけれど、今より、ずっとずっと暖かかった時代。皆が助け合うから生きていけた時代。この時代に持っていた何か大切なものを、皆置き忘れてきたのではないだろうか。物の豊かな今、こうして当時の写真を眺めてみるとつくづくそういう思いがします。

 そう「臭い」なのかもしれない。生きている「臭い」がしてくる写真。それが井上さんだった。
 写真展の感想にも書いたけど、本物の写真を是非ご覧ください。あと1週間しかないけど、必見です。全然迫力が違います。(当たり前だけど)
 会社を早退してでも見に行きましょう。半蔵門駅からすぐだから4時に早退すれば30分見られます。
 そして、その前に速攻でこの「音のない記憶」をお読みください。一気に読めると思います。そして、読んだらゼッタイ写真展に飛んでいきたくなります。 

P.S.

 「かたつむり」のことも誰か素敵なルポライターが本に書いてくれないものでしょうか?
 この黒岩比佐子さん、素敵な文章を書く人だと思います。
 どなたかご紹介いただけませんか?
 文藝春秋に電話すりゃいいんでしょうが、そういうの大の苦手なんですよね、僕。
 でも、ここからたましろの郷建設実現までは結構「絵になる」と思うんだけどなぁ・・・。
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