2003年度谷和原村手話奉仕員フォローアップ研修会

日時 内容 テーマ
第2回
06/13金
ビデオ読み取り 「手話教室−基礎」(全日本ろうあ連盟)
第6講座 基本文法−主語の明確化2
会話練習 シーン1;ろう者のKさんを、聴者のTさんが守谷市ろう協のバス旅行に誘う。
ろうあ問題
話し合い

1.ビデオ読み取り

・最初は、ビデオのある第2講座から順番にやっていこうと思ったのですが、いきなり最初の第2講座でつまづきました。

<1>教材は、できる限り”自然な会話”で。

・こういう会話です。

おかあさん、テレビのCM見て、びっくりしたよ。
何?
包丁で切れるものは何がある?
いつもお料理の時、切っているじゃない。
大根、人参、魚、切ってるよ。
紙はハサミ、木はノコギリで切るものと思っていたのに、大根も紙も包丁で切っていたよ。
本当?

 ・最初見たときは、3番目の父の文章が読み取れませんでした。

 ・手話表現は、<包丁(で切る仕草)/包丁(の形)/大丈夫/何?>

 ・「包丁で切れるもの」という概念を、唐突に表現して受講生に読み取らせるというカリキュラムのあり方自体にすごく疑問を感じます。

 ・これは、<日本語の「切る」を手話で表すといろいろな表現になります=具体的表現>という学習テーマに基づいた例文なんですが、聴者と思われる母役の反応が不自然なのです。

 ・包丁は「切る」ものですから、本来「切れるのは何?」と聞かれたら、「切れるもの? どういうこと?」という疑問の表情になるのが自然なのではないでしょうか。

 ・これは何を意味するかというと、文脈を無視して会話文を簡略化しては、教材として使えないということだと思います。受講生にある程度「文脈から意味をつかめて」初めて「なるほど、切るという表現が、手話と日本語では異なる場合があるのだ」ということが理解できると思うのです。

 ・この会話文では、「紙も大根も切れる包丁をテレビコマーシャルで売っていたよ!」という会話の主題が、見えなくなってしまっていると思います。(「紙を切れる包丁」がそれほど驚くほどの商品かという問題もあります。)

<2>手話の会話練習と手話通訳の翻訳技術との違い

 ・そんなわけで続く第3講座でも、会話は子供と親との会話で「手話奉仕員に何を求めているのか? 親子の会話のお手伝いでもさせようというのか?」という疑問を感じてしまいました。そもそも子供の手話って独特で(表現の幼さみたいなものがある)、それを受講生に学ばせよう(教材にしよう)という趣旨も理解できません。

 ・第3講座は、「なる」という日本語を、どのように適切な手話に「置き換える」か?というのがテーマなのですが、

正樹 この前「将来の夢」っていう作文書いたんだ。
何を書いたの。
正樹 大きくなったら(1)、プロのサッカー選手になりたい(2)って。
そうか、お姉ちゃんは、手話上手になって(3)、お母さんのような手話通訳者になりたい(4)って言ってたよ。

・(2)の「なりたい」では、子供の手が「変わる」という手話に動きかけてるし、(4)は<目指して/一生懸命>という手話表現を「なりたい」と通訳するのは、文法的な課題というより、手話通訳としての翻訳方法(技術)の問題なのではないでしょうか。素直に読み取れば「お姉ちゃんは、お母さんのような手話通訳者目指して頑張るって話してたぞ」というのが適当ではないかと思います。

<3>家庭内でなく、私たちとの関わりの中に場面を設定すべき

 ・第4講座は、夫婦の会話で、これも「奉仕員にはあまりなじまないシチュエーションではないか?」と感じます。どうせなら、友達のろう者と潮干狩りにいって家でそれを料理してみんなで食べるというような場面設定ならまだ分かるのですが。

 ・そもそも最初にビデオを見て、鍋に入っているのが「貝」だと読み取るのは至難の業だと思いました。お母さんが横向きなので口話がうまく読み取れないし、「貝」の手話が素早くて…。なんかみんなで採ってきたものが煮てあるのは理解できるのですが…。

 ・テーマは「表情・強弱・速度を工夫して表現しましょう」。

おいしそうだな。いっぱいあるなあ。
ええ。今日、みんなで採った貝よ。
大きいの小さいの(1)、いろいろあるけどね。
大きいのはオレ、小さいのは正樹に食べさせたらいい。
まあ! でも、正樹、夢中になって採ってた(2)わね。
今日は疲れた(3)でしょう、ご苦労様。
うん、いつもなら1時間くらいでスイスイ行ける(4)のに、5月の連休で渋滞していて(5)3時間もかかったよ。
本当にお疲れ様、でも子ども達もとても喜んでいたね。
そうだな。また行こう!

 ・う〜ん、手話奉仕員の教材としてはなあ〜???という感じです。(1)「大きい、小さい」は基本的な単語として「大きいの」「小さいの」として表現していないと思うし、(2)「夢中になって採る」には「様子を思い浮かべて」という注釈がついているのですが、潮干狩りの様子をリアルに表してるとは思えません。何か解説がしっくりこないと感じるのは僕だけなのでしょうか?

 ・(4)「スイスイ行ける」の「スイスイ」が一つのポイントかと思いますが、ここは、むしろ「行ける」を「2台の車が並んで走る」様子で具体的に表していることの方が、受講生が引っかかる点だと思います。ここは(5)渋滞との比較から、こうした表現が適切だといえると思うのですが、これもむしろ手話通訳としての「わかりやすい表現」の指導項目のような気がします。

 ・これらのことを手話の基本文法だと説明するには、もっと手話表現からのアプローチがなされなければならないように思います。文字にかかれたテキストの限界でもありますが、全て「先に日本語ありき」というのが、受講生にとって「何を教えてくれようとしているのかが分かりにくい」現象につながっているように感じるのです。

<4>「格」問題なくして「位置・方向」学習なし

 ・第5講座は、おじいちゃんと孫の会話です。学習テーマは「位置・方向を工夫して表現しよう」。ここは、「格」の問題とからめて学習しないと、実際の読み取りではほとんど役に立たない気がします。

正樹 おじいちゃん、お願い(1)。
祖父 何?
正樹 夏休みの自由研究で、飛行機を作りたいんだけど、難しいんだ。手伝って(2)!
祖父 正樹の頼みは断れないなあ(3)。いいよ。手伝ってやろう(4)。
正樹 わあい! ねえ、ここ教えて(5)。

 ・テーマとしては、大変重要なところです。聴者が苦手とする表現というか、「勘違いしやすい」表現だと思います。つまり「位置」「方向」が「格」を表す基本だと思ってしまいがちだと思うのです。例えば、自分と友達の会話なら、自分が左向き、友達を右向きで表そうなどと単純に考えれば良いという「文法」が、実際のろう者の手話を読み取れなくしているように感じるのです。

 ・あるいは、受動態と能動態という概念も「自分向き」が受動態、「相手に向かう手話が能動態」と決めつけてしまうような「文法」も、手話を学ぶ人たちの頭を硬直化させていると思います。

 ・手話の場合、面と向かって「正樹の頼みは断れないなぁ」というところで、正樹に向かって「断る」という手話を表現するのは、不自然だと思うのですが、いかがでしょうか? 面と向かって「断る」って手話表現するのは、女の子がナンパしてきた男の子のデートの申し込みを断る時くらいじゃないのかなあ。普通は「できない・難しい」って手話表現するとか、「仕方ない」「かまわない」って表現すると思う。

 ・日本語から発想した例文を「手話に翻訳」しているのが今のテキストの作り方だと思う。逆に「手話による自然な会話」を教材とするようなカリキュラム作りが必要だと思うのです。

<5>本日の会話例文ビデオ

 ・やったら前置きが長くなってしまったのですが、そういうわけで本日は、第6講座のビデオを読み取り練習に使用して、学習を進めます。日本語に「翻訳」することが趣旨ではないので、一つ一つの手話表現をきっちり見ることを受講生に理解してもらおうと思います。そして、シャドウイングをしてもらいます。(「ビデオを見る」部分では、必ずしも1回とは決めずに、受講生の反応を見ながら、それぞれの項目ごとに数回繰り返して見てもいいと思います。)

ビデオを読み取ってみる とりあえず見る。意味が漠然とでも理解できるかどうか?
再度ビデオを読み取る 手話や表情、そして口話もきっちり読み取る
手話による質問 (1)誰を誘おうとしてますか?
(2)どうやって連絡を取ることに決まりましたか?
(3)行けない場合、どうしますか?
シャドウイング ビデオの手話表現をそっくりそのまま真似て覚えてしまう。

2.会話練習

シーン1「バス旅行に行かない?」

 チームA;ろう者のKさん役

 チームB;聴者のTさん役

 会話の状況;「守谷市ろう協のバス旅行に一緒に参加しよう」と誘っている。

 ・これだけの状況設定でロールプレイングやってくれというのは、かなり乱暴かもしれませんが、日付や行き先も受講生に「創作」してもらおうと考えています。

<進め方>

各チーム内で作戦会議
 ・想定される会話文を考えて、二人でどんな風に答えたらいいか相談する。
 ・会話が長くなり過ぎると、あとでみんなで練習するときに大変なので、会話の目安は「3往復程度」とします。
会話バトルのルール
 a)声なし
 b)相手の言うことが分からない時は、まず「もう一度お願いします。」
 c)何度か繰り返してもらっても、どうしても分からない時は、「スミマセンが、ちょっとお待ちください。」と断った上で、チーム内で相談。多少分からなくてもいいので、とにかく何か答える。
 d)基本的に会話が3往復したら、対戦終了。
採点
 ・他の受講生が採点。勝ち負けを採点するのではなくて、会話そのものが、
   スゴク良かった(5点)、
   良かった(4点)、
   まあまあ(3点)、
   ちょっと分かりにくかった(2点)、
   もう少し工夫しておもしろい会話を考えてほしい(1点)
の5段階評価です。
手話表現のポイントを講師が解説
 ・手話を書き取る(板書) ⇒ 日本語訳を書くのではなくて、手話ラベルを「/」で区切りながら書き取る。(こんなこと僕にできるだろうか?自信ないなぁ〜。)
 ・表現のポイントを説明
バトルの会話をみんなでシャドウイングして覚える。

3.ろうあ問題NOW

 ・日本聴力障害新聞より

 ・やすらぎ新聞より

4.受講生内の話し合い

 ・手話歌について

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