2002年度茨城県手話通訳者養成講座2(応用・実践) <第1回>
◆カリキュラム以前の問題として、「指導」するだけの「手話通訳の力」が僕にあるのか?
<1>読み取り通訳「指導」について
9月7日(土)は僕の担当ではなかったのだけれど、テーマは「読み取り通訳」ということで、全日本ろうあ連盟のテキスト「手話通訳者養成講座(応用課程)」第11講座「殿守さんのろう学校の思い出」を教材にカリキュラムが組まれていた。
必死でビデオを読み、書き取りをやった。
最初に「単語読み」をやって、それらを「日本語訳」に翻訳する作業を行った。
しかし、読み取りして「日本語訳」作るだけでは、手話通訳「指導」には何も役に立たないことに気が付いた。
つまり、それは「僕はこんな風に読めました」って言ってるに過ぎなくて、受講生から見たら「へぇ〜そんな風に読むんですかぁ〜、なるほどねぇ〜」で終わってしまうのだ。
考えてみると、僕にとっての「読み取り学習」って、ずっとこのパターンだった気がする。
この点について、馬場さんは、先日の指導者養成講座で鋭い指摘をしていた。曰く「日本語と手話言語の違い、翻訳技術を指導しなくてはいけないのです。」
<2>読み取り学習教材について
「どのように教材研究を行ったらいいのか?」20年もやってきて、今さらこんなことを考えているのだ。確かに、僕は手話通訳の勉強って世田谷に来てからは中途半端にしかやってこなかった。今は、国立身体障害者リハビリセンターの学院で、キチンと3年制の手話通訳学科があるくらいだから、そうしたところでは、ちゃんとした指導が行われているのだろう。
そうした成果を、地方に持って来るにはどうしたらいいのだろう? やはり、そういうトップレベルの場所での指導方法や教材が、テキストや参考書あるいは、指導者用教本のような形で還元される必要があるように思う。
9月末に「手話通訳士実技試験合格への道」ということで、日本手話通訳士協会が作った試験対策ビデオが発売される。(3巻で22,000円!)
第1巻(22分) なるほど!これが聞き取りのこつ 解説;市川恵美子
第2巻(28分) 見る!わかる!読み取りのこつ 解説;大杉豊
第3巻(30分) さあ!読み取り練習にトライ! 解説;大杉豊
是非、僕も頑張って(まず買うためのお金工面して…)勉強しなければと思う。
今回、取りあえず今日(9月14日)、大穂公民館で行われている第13回応用講座カリキュラムに合わせて、応用テキストの第13講座のビデオ”地震体験と近所付き合いの大切さ”を「手話ラベル(単語書き取り)」「日本語訳」「ポイント」の3つに分けて、資料を作ってみた。
一番大切だなと感じたのは、自分の作った「日本語訳」を客観的に分析して「ポイント」をまとめる作業だった。
●この訳で本当に良いのか?
●もしかしたら別の読み取りをすべきではなかったか?
●他にもっと適切な日本語がないだろうか?
さらには
●話者の手話表現の文法的な分析
●語彙の整理
なども指導者として事前にやっておくべき作業だなと感じた。
こうした「教材分析」という作業を、ろう講師・聴者講師集まって、みんなでやり、教材についての理解を十分に深め、その上でカリキュラムを組み立てるというのが本来の姿なんだろうなあ〜。これまでは、「流れ」を作るだけで精一杯だったもんなぁ〜。
<3>「応用テキスト」読み取り通訳の指導内容
ところで、「現在の指導方法」は、どんな風になっているかというと…。
応用テキストの記述 木下コメント 第11講座
1.まず、初回で通訳してみましょう。
2人1組になってお互いの通訳をチェックしあいましょう。ここは、「口頭通訳してみなさい」って言ってるのかなあ〜?
他の人が「口頭通訳」したものをその場でチェックって、実はすっごく非現実的な学習方法なのだ!
お互いに「初めてビデオで手話を見る」んだよ、ビデオの手話表現を見て「自分が読み取るだけでも精一杯」なのに、隣の人が口頭通訳する声を聞いてチェックする、ってア〜タそんなことができるくらいなら、とっくに試験に合格してますがな。(1) 読み取れなかった単語
(2) 読み落としたところ
(3) 日本語に換えにくかったところ
(4) 全体として聞きやすい日本語だったか(4)は、まあ何か言えるよね。
でも、(3)なんて「日本語に換えにくかったところ」を手話で再現してみせなさい!っていうことなのでしょうか?少なくとも「日本語では再現できない」よね。換えられなかったワケだから。
(2)「読み落としたところ」を表現しなさい、って矛盾してないか?表現できないに決まってるよ「読み落としてる」んだから。
(1)の「読み取れなかった」部分は、「あそこはどう読んだら良かったのかしら?」とは指摘できるかもしれないけれど、いずれにしてもこれらの作業を「受講生同士」でやらせても、あまり成果はないように思います。◆結局(1)〜(4)の作業を可能にするには、口頭で読み取った内容を一度「紙に書き起こし」て、それをビデオと見比べながらチェックする必要がある。
◆士養成講座では、[1]まず、初見(1回だけ見て)口頭通訳しカセットテープに吹き込み、それをテープ起こしする。[2]次に何度もビデオを見て、自分なりの「読み取り翻訳文(正解文)」を作ってくる。
という宿題を受講生にお願いした。
そして、講座の中では、<1>初見の読み取り文章を見て「読み落とし」や「読み間違い」をチェック、さらに<2>正解文を見て、「翻訳の正しさのチェック」や「日本語としての適切さ」などをチェックした。
◆それも、事前に受講生から講師宛に郵送で送られて来た[1]初見読み取り文章と[2]正解文のそれぞれをOHPシートに写して、受講生同士の内容比較などもやったのだったが、講師の負担が大きすぎて、僕など受講生の半分の人の分しかチェックできなかった苦い思い出がある。
これを毎週行われる通訳者養成で行うのは、まったく不可能だ!2.繰り返しビデオを見て、チェックした内容を確認 3.読み取り通訳をしてみましょう。
・ 後を追うように通訳してみましょう。
・ 全体を通して通訳してみましょう。4.話し合ってみましょう。
・ 難しいと感じた点。
・ どのような準備があればよいか。
・ 読み取れなかった時の対処方法。
・ 場面にあった言葉遣いの工夫。
・ 専門用語などの正式な名称。
<4>読み取り学習のカリキュラムのあり方(具体的指導方法の試案)
(1)まず初見で読めた範囲で「訳文1」をノートに書く。
(2)もう一度ビデオを見て、「訳文1」を補足・修正して「訳文2」を書く。
(3)「訳文1」と「訳文2」を比較して、初見で(1)読み取れなかった単語、(2)読み落としていた単語を書き出す。
⇒時間があればお互いに発表してもらうと良い。
(4)ビデオを1文ずつ止めながら、かつ、3回ずつ繰り返しながら、手話を拾う。(斜線「/」を入れながら、手話ラベルをノートに書き留める。)
⇒ここは結構大変な作業なので、「隣同士協力してもいい」くらいの条件が必要かもしれない。でないと時間がかかりすぎてしまうと思う。
(5)書き留めたメモを参考にして「訳文3」を書く。
(6)講師が「模範解答」を示す。(プリント配布)
⇒できれば、1)斜線/入りの手話単語メモ、2)翻訳文、3)読み取りのポイント、がまとめられているプリントを作成するのが望ましい。
(7)模範解答と自分の「訳文1」〜「訳文3」を比較して、(3)日本語に換えにくかった所や(4)日本語としての適切さをチェック
<5>読み取り通訳の指導力とは?
応用テキスト第13講座の読み取り教材の資料を作っていて、痛感した。「ホント、キチンと読めないなぁ〜オレ。」
自信を持って読み切れないのだ。何度ビデオを見ても読み取れない部分がある。スローで見ると意味が取れないし、通常のスピードで見ると「目が付いていかない」。
先日も指導者養成で、「母が私に弁当を作ってくれた」という例文に対して、一緒に講師やってる吉澤さんが、<母/指さし(母)/作る/弁当/私/くれる>と表現された。僕は、「作る」の手話が読み取れなかった(見えなかった)。休憩時間に同じ通訳士仲間の川畑さんに「さっきの吉澤さんの手話どうやったんだっけ?」と聞いたら、彼女は「<母/作る/弁当>って逆になってるところがスゴイよねぇ〜」とちゃんと読み取れていて、内心ショックだった。僕など<私/くれた>と「私」が小さく入っているのを読むだけでアップアップしていたのに…。
こうして考えてくると「シャドウイング」を織り込むことも、読み取り学習には効果があるかもしれない。ろう者の表現した手話をそのままそっくり真似て再現する「シャドウイング」。
上の試案の(4)と(5)の間に、(4.5)読み取った手話をシャドウイング練習する。を加えよう。
まあ、結論的に言えば、僕は通訳者養成レベルの講師としては手話通訳力・手話指導力ともに不足しており、現状では講師失格ということになる。
ただ、受講生には申し訳ないことに、今年度の講師は引き続き僕が担当するのであり、特に後半の実践課程の聴者講師は全て僕が担当することになっている。
かくなる上は、僕もひたすら勉強・練習するほか、受講生の熱意に報いる道はないと思う。
僕が次に担当するのは11月9日(土)の第19講座から来年3月1日の第30講座までの11回となる。あと1ヶ月足らずだが、最大限の努力をしたいと思う。
<養成講座メニューに戻る> <トップページに戻る>