木のつぶやき
1999年8月17日(火)晴れ

 金がない、金がないと言いながら、また本を買ってしまった。
 「433頁もある本を読了し、UPできるのはいつのことやら」とも思うので、取りあえず「買った」ということをつぶやいておこうと思う。
 (いつの日にか、読了したら「本だな」のコーナーに移します。スミマセン。)

タイトル 「障害者ケアマネジャー養成テキスト[身体障害編]」
著者 16名の方が執筆、うち聴覚障害者関係の一部を
野沢克哉さんの講演原稿を元に京都の近藤幸一さんが書いている。
監修 厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課
出版社 中央法規(電話03−3379−3861 FAX03−5358−3719)
発行日 1999年7月10日
読了日 いつになることやら・・・B5判 全433ページ
価格 3500円+税175円
購入場所 新宿東口・紀伊国屋書店 4階

 先日の奈良・ろう教育を考える全国討論集会の重複障害者問題分科会で大阪の佐藤さんが紹介してくださった「みんなの共同作業所」(ぶどう社)を探しに、紀伊国屋書店に立ち寄った。
 「みんなの共同作業所」は見つけられなかったが、この「養成テキスト」に書かれている「重複聴覚障害者とその生活ニーズ」のページが、たったの2ページでしかないことに憤りを感じて思わず、コノヤロウと買ってしまった。憎たらしいから目次を紹介しちゃおう。

はじめに
 第1章 障害児・者福祉の動向とケアマネジメント
  第1節 ケアマネジメントへの取り組み
  第2節 最近の障害児・者福祉の動向
  第3節 ケアマネジメントの実施にあたって
 第2章 ケアマネジメント概論
  第1節 障害の概念
  第2節 自立生活の概念
  第3節 ケアマネジメントとは
  第4節 ケアマネジメントの考え方
 第3章 身体障害者ケアマネジメントの基本的枠組
  第1節 ケアの基本理念
  第2節 ケアの原則
  第3節 総合相談窓口
  第4節 ケアマネジメントの意義と留意点
  第5節 ケアマネジャーの業務
  第6節 障害者を対象とするケアマネジャー
  第7節 高齢者と障害者のケアマネジメントの相違点
  第8節 ケアマネジメント機関と関係諸機関との連携
  第9節 ケアマネジメントの過程
  第10節 各種様式
 第4章 ケアマネジメントの実施方法
  第1節 アセスメントの仕方
  第2節 ケア計画の立て方
  第3節 ケア会議の持ち方
  第4節 社会資源の活用と開発
 第5章 試行事業の実施
  第1節 試行事業の意義と目的
  第2節 試行事業の体制づくりと検討課題
  第3節 試行事業をどのように進めたか
  第4節 明らかになったこと
 第6章 聴覚・言語障害児・者の生活ニーズ
  第1節 聴覚・言語障害の理解
  第2節 聴覚・言語障害のある人の生活ニーズ
    1 コミュニケーションに関わる領域
    2 日常生活動作に関わる領域
    3 教育・就労に関わる領域
    4 社会参加に関わる領域
    5 重複聴覚障害者とその生活ニーズ ★
    6 高齢聴覚障害者とその生活ニーズ
  第3節 ケアマネジメントの留意点
 第7章 視覚障害児・者の生活ニーズ
  (略)
 第8章 肢体不自由児・者の生活ニーズ
  (略)
 第9章 内部障害児・者の生活ニーズ
  (略)
 第10章 相談面接とケア計画作成のための演習例
  (略)
 第11章 養成研修計画の企画
  (略)
 第12章 事例
  (略)
 

 そうか、「身体障害編」ということは、「精神障害編」があるわけだ。「知的障害」については、「精神障害編」で扱うことになるのだろうか?
 いずれにしても、ろう重複の場合は、テキストの区分けからして別になっている障害を「併せ持っている」ことの重要性をわずか2ページ(表を除くと実質1ページ)であっさり書いてある。
 その「あっさり」ぶりを次に再現する。(著作権侵害かな?)

202頁 重複聴覚障害者とその生活ニーズ ★

 重複聴覚障害者とは、聴覚障害に加え他の機能障害や難治性の疾病を先天的・後天的に併せ有し、能力障害ハンディキャップのある人々を意味する。
 
その生活ニーズは基本的には他の人々と異なるものではない。しかし、生活ニーズを満たすのにより多くの時間と専門的なコミュニケーション手段を用いた支援を必要とする人々である。
 重複聴覚障害者の障害軽減のための医療、リハビリテーション、療育、教育、労働、自立支援、社会参加支援のための社会福祉サービス、社会サービス等、聴覚障害自体及び重複する障害(知的障害、精神障害、内部障害、視覚障害、肢体不自由等)それぞれへの支援のあり方が総合的に展開されなければならない。
 その場合、障害の種類や程度、受障時期、生活・社会環境等の要因が絡み合って、保健・医療、教育、労働、在宅生活の支援や福祉施設の入所等、ADLの自立や身体介護からコミュニケーション支援や自己決定のための情報提供に至る、
極めて多様で、かつ総合的な支援が必要とされている。
 特に、コミュニケーション障害と情報障害の部分に焦点を当てれば、知的障害を重複する場合には、言語能力の発達の障害やそれによるコミュニケーション障害が発生する。
 視覚障害を重複する場合、自分と他者とのメッセージの送受や情報の送受の困難が発生する。
 精神障害を重複する場合は、対人関係や社会関係の形成に困難が発生する。
 それぞれの障害の有するコミュニケーション上の障害、情報の障害、対人関係・社会関係形成の障害は、聴覚障害を単独で有する人々に比べ、
さらに幾重にも人間発達の機会や自立や社会参加の制限を受けている。
 したがって、障害の早期発見・早期治療、乳幼児期からの療育やその後のライフステージにおけるリハビリテーション、重複障害児教育、職業教育・訓練、就労機会の確保、生活支援及び
専門的なコミュニケーションの支援のための施策の総合的な利用が要請されている。
 1980年代初頭に、京都府の「いこいの村栗の木寮」(重度身体障害者授産施設、1981年)により本格的に取り組まれ始めた重複聴覚障害者の生活と労働を保障する事業は、その事業内容や援助方法・技術の研究・検証を深めながら、その後「なかまの里」(大阪府、1994年)、「ふれあいの里・どんぐり」(埼玉県、1996年)や
各地に設立された小規模作業所等で発展的に取り組まれてきている。
 今後は、全国各都道府県に、重複聴覚障害者の利用できる通所型・入所型の労働施設や生活施設の整備をしていくことと、現状では未整備である重複聴覚障害者への在宅福祉諸事業の整備が待たれている。

 限られたスペースで「ろう重複」について解説するとこうなる、ということなのかもしれないけれど、例えば、このテキストで学んだ「障害者ケアマネジャー」が、盲ろう者と対面した時、<自分と他者とのメッセージの送受や情報の送受の困難が発生する>ということが頭に入っていればそれでいいのだろうか?
 もっと現場の視点に立ち、「ケア場面における困難性・特殊性」ということについての記述がなければならないのではないかと感じた。具体的には、コミュニケーションの壁によって「ケアニーズの把握」が難しい上に、ケア上のやり取りにも困難が生じること、また精神障害を重複する場合の聴覚障害起因の問題との判別の難しさなどについて、より深い認識がなければケアそのものが成立し得ないのではないかと感じたが、いかがなものだろうか?

 いずれにしても「役所のテキストとは、こういうものだ」と割り切ってしまえば、こんなもんかもしれないけれど、なんだか釈然としない3500円だった。

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