■茨城県手話通訳者養成講座・講義■

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No 項 目 内  容
1. 日 時 平成17年06月25日(土)13:30〜16:00
2. 場 所 茨城県総合福祉会館
3. 対 象 2コース(応用)クラス受講生(一般参加あり)
4. テーマ 「手話通訳者の理念と仕事」
1.はじめに
 ・自分自身がコミュニケーションを大事にする人でなければ・・・
2.手話通訳するにあたって準備すべきこと
 ・養成講座受講生の意見
 ・手話通訳士グループの意見
 ・一般の通訳者の場合
5. 資 料 表紙(もくじ)
「手話通訳の仕事と理念」(士仲間の指摘)
手話通訳者は、通訳環境をコーディネートしなければならない」(馬場傑氏講義資料より抜粋)
「手話通訳士まるごとガイド」(ミネルヴァ書房)より
 「4.『手話ができる』と『手話通訳ができる』は別のこと」30頁
 「6.聴覚障害者のコミュニケーション保障と情報保障が職務の柱」(手話通訳士倫理綱領)34頁
「良い手話通訳者」になる8ヵ条(白澤麻弓さん講義資料より抜粋)

5.原稿(案)

6月24日(金)現在

No 項 目 内  容 メモ
1. はじめに みなさん、こんにちは。谷和原村の木下耕一と申します。
今回の講義を引き受けたとき、最初に何を考えたかというと「この1年間自分が勉強してきたことを振り返ってみよう」と思ったんですね。
実は、去年もこの「手話通訳者の理念と仕事」の講義を担当したんです。1年経ったんだから去年よりもうちょっと中身のある話ができたらいいなと思って、自分はこの1年間でどれだけ前に進めただろうかって振り返ってみようと思いました。
まず、ろう問題はどうかな・・・日聴紙=全然読んでない、手話通訳士協会の機関誌「翼(つばさ)」=難しすぎて部分的に読んだだけ、全通研の研究誌=積み上げた本の山の中に埋もれたまま→でも、明日の「障害者自立支援法案についての講演会」のために最近掘り起こしました。
あ〜全然進歩ない。ため息がでました。
●自分のこの1年間を振り返ってみよう
日本語に関する本は比較的あれこれ読んだかなと思っています。でも、日本語のセンスが良くなったかっていうと、最近はもの忘れがひどくなって、言葉を思い出せないことの方が多くてセンスの善し悪し以前のレベルになっています。
先日も「ありえない日本語」(秋月高太郎さん著/ちくま新書)を読んで、おお、おお、これうちの娘が使ってるわい、とか楽しく読みましたが、何かって言うと「ありえねぇ〜」とか「なにげに」よさげだよねとか、このケーキ「やばいよ」っていうから毒でも入ってるのかと思ったら「おいしい」って意味なんですねぇ〜、おじさんは大いに驚きます。
●ろう問題の勉強は×だけど、日本語の勉強は○
手話の方はどうかっていうと・・この1年間は手話を使う頻度がものすごく減ってしまいました。仕事がずっと忙しかったので、通訳もかなり断っていましたし、地元の手話講習会のお手伝いもまったくできませんでした。手話通訳者研修会のお手伝いだけは何とかやらなきゃと思ってましたが、やっぱり普段聞こえない方とお会いしないと頭の中がさび付いちゃってダメですね。 ●手話の勉強は×××
そんな中、去年の8月に全国盲ろう者協会主催の「盲ろう者と地域住民との体験交流会」が大洗でありました。私は2日目の分科会の通訳に行ったのですが、盲ろうの人の手話がさっぱり読み取れなくて、特に関西の人の手話はからっきしダメでした。会場には、パソコン要約筆記の方たちがスタンバイしてて、私が読み取る声を聞いてパソコンに打ち込むわけですが、私がさっぱり読めずに地元の人にマイクを押しつけて「すみませんが読み取ってください」とかおたおたしてるのをずっと待っててくださったのです。やっぱり視線というのか、普段はほとんど「あがる」ということはない性格なのですが、この日はほんとうに動揺してしまいました。それが結構ショックで、帰るときにETCカードを車にセットするのを忘れてETCのゲートにぶつかってしまうほどでした。
余談ですが、ETCのゲートにぶつかるのってすっごい恐ろしいです。うわぁなんで?〜開かないぃ〜ぶつかるぅ〜ガラス割れるぅ〜って感じでゲートに突っ込みました。でも、何のことはないあれはぶつかっても簡単に跳ね上がるようになってるんですね。そりゃそうですよねあれで車のフロントガラスが割れたら大事故になってしまいますから。しばらく茫然自失でした。
●読み取り通訳の大失敗
それ以来ちょっとトラウマというのか、通訳、特に読み取り通訳にビビるようになってしまって・・・
でも、そんな状態からどうやって立ち直れたかというと手話通訳士の仲間に元気づけられたからなんですね。仲間や先輩の存在とか、手話通訳者のチームワークということがとても大切なんだなぁ〜ということを最近非常に感じています。
手話通訳ってすごくメンタルな部分への負担が大きいですよね。だから一人一人が「落ち着いて通訳できる」ってことがとても大切なんだと思います。その際にチームワークとか仲間どおしのコミュニケーションが有効なんです。力(ちから)になってくれるんです。
それで今回の講義のテーマは、「仲間を大切にしよう」「仲間と助け合って高め合おう」というようなイメージをベースにして考え始めました。
●立ち直りのきっかけ
今回の講義の原稿を準備する中でも、そんな「仲間とのコミュニケーション」が大切であることを山梨の小椋さんが書かれていたので紹介したいと思います。
ちょっと読み上げますね。
●仲間を大切に
■参考図書■
「資格のとり方・しごとのすべて−手話通訳士まるごとガイド」より
(日本手話通訳士協会監修/ミネルヴァ書房/2004年8月発行)
■小椋英子さん(日本手話通訳士協会会長・山梨県)
手話通訳者にとって、大切なことは何ですか? 115ページ
 いいコミュニケーションとは、一方的な決めつけや押しつけではなく、お互いが我慢せずに、考えを出し合えることです。私は、自分自身がコミュニケーションを大事にする人でないと、いい通訳はできないと思います。まず自分という道具があり、その上で手話です。家族や仕事仲間、聞こえない人たちと、普段どんなコミュニケーションをしているのかが大切。仲間を大切にせず、自分さえよければいい、つまり、いいコミュニケーションがもてない人は、人と人とのコミュニケーションに携わる通訳という役割は果たせないと思います。
 通訳とは、究極的には、人の気持ちにかかわる仕事です。コミュニケーションとは、言葉の意味だけでなく、そこに込められた気持ちや感情を伝え合うこと。通訳者にとって、手話という技術はもちろん大事ですが、自分の人間性なしに、心と心のやりとりの現場に立ち会うことはできないのではないでしょうか。それは本当の意味で、技術を生かしたことにはならないと…。
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小椋さんは2001年6月に手話通訳士養成講座の公開講義で土浦に来ていただいたことがあります。その時のお話しにもすごく感激しました。ホント素敵な方です。
2.できるだけ具体的な話しをしよう 次に考えたのは、去年はかなり精神的な話しをしたので、今年はできるだけ具体的な話しをしよう、ということでした。
そこで、手話通訳士仲間に、「手話通訳の依頼を受けてから手を動かし始めるまでの準備について、教えて」と頼んでみました。それが6月2日木曜日。
いろいろ意見をもらったのですが、その中で「実際に受講生に”あるテーマをもらった時にどんな準備をしますか”って聞いてみてはどうか」という意見がありました。
それはいいアイデアだと思って、先週つくば会場・水戸会場それぞれの講師にお願いして、受講生の皆さんに「通訳依頼を受けてから通訳が始まるまでの間にどんな準備が必要かを、実際に自分が通訳の依頼を受けた立場になって考えてきて欲しい」という宿題を出してもらうようにお願いしました。
水戸会場の方は、実際にクラスにおじゃまして講座を見学させていただいたついでに私から直接お願いさせてもらいました。
■受講生の視点■ 受講生の皆さん、どうでしょうか?
黒板に書き出しますので、気がついたことを言っていただけますか。
まず、横に時間軸を取りますね。
そして上半分に自分だけでできること、下半分に自分以外の人と準備しなければならないことを書き出していってみます。
【受講生を名簿で順番に指名して、書き出す】
ちなみに先週の土曜日の水戸クラスでは、こんな内容が指摘されていました。
■参考図書■
「手話通訳者養成講座(応用課程)」
・第8講座「政見放送の学習会」(聞き取り通訳)
−−このような通訳を依頼された場合は、どんな準備をしておけばよいでしょうか。
→日時の確認(1時間前?)
→場所の確認
→文章(原稿・内容)の確認
→対象者
→講演者の経歴
→通訳担当者の人数
→服装(背景の色)
→立つ場所(位置)
→照明(音響)
→依頼者(主催者)との関係
→講演者と通訳者の関係
→講演者との事前打合せ
→ろう者の座席(位置)+案内板の確認
●6月18日(土)水戸クラスでの整理
■一般通訳の場合■ 一般の外国語通訳なんかの雑誌には、こんな風に書かれています。
■参考図書■(通訳者としてのスキルアップ)
イカロスmook2004「通訳者・翻訳者になる本」(イカロス出版)
・知らないと損する通訳の常識−受注から仕事を終え現場を退出するまで
●トレーニング方法なども掲載されています
−−通訳者の服装
−−通訳の道具
−1)水
−2)のどあめ
−3)筆記具・マーカーペン
−4)付箋
−5)ホチキス
−6)オペラグラス(通訳ブースからOHPなどを見るときのため)
−7)イヤフォン(会場のヘッドフォンは疲れるので自分のものを持参)
−8)ストップウォッチ(交代時間の計測用)
−9)電子辞書
<仕事を請けるとき>
1.留守電に入っていたメッセージにはすぐ対応を
2.自分の力量でできる仕事かどうか見極めよう
3.いったん請けた仕事はキャンセルしない
4.パフォーマンスの品質を維持できるスケジュール管理を
<仕事前>
5.資料が支給されないときには、自分で調べて準備
<当日、通訳前>
6.余裕をもって到着するよう心掛ける
7.クライアントへまず挨拶
8.会場のコンディションをチェック!
9.スピーカーやクライアントに打合せをお願いしよう!
−1)スピーチ原稿の有無
−2)固有名詞やことわざの引用
−3)OHPの使用
<通訳をしているとき>
10.スピーカーが早口の場合は丁重にゆっくりしゃべるようお願いしよう
<当日、通訳後>
11.担当者に挨拶して退出
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■”プロの心構え”■ もう1冊ご紹介するのは、全通研学校のテキスト「社会福祉と通訳論」で知った長尾ひろみさんらが書かれた一般の外国語通訳向けの教科書です。一部分少しだけ(実はちょっと長いですが・・・)引用させていただきました。
とってもいい教科書だと思うので是非お買い求め下さい。
■参考図書■
グローバル時代の通訳−基礎知識からトレーニング法まで」(三修社)
(水野真木子、中村眞佐男、鍵村和子、長尾ひろみ 共著)
第1部理論編
 1章 通訳とは
 2章 異文化コミュニケーション
 3章 通訳と言語学の接点−通訳における推移の問題点
 4章 通訳技法
第2部実践編
 1章 通訳トレーニング
 2章 プロの心構え(仕事を受けたら)
 [1.事前準備]
◎クライアントとのコンタクト
(略)
◎リサーチをする
 通訳業務がうまくいくかどうかは、ひとえに事前準備が充分できたかどうかにかかっています。通訳をする内容に関する知識があれば、リスニングの際に聞き間違える危険も減りますし、聞いている人にとって説得力のある通訳が出来ます。ですから、通訳者は出来る限りの事前準備をして臨むのです。
 資料がクライアントから送られてくれば、まずそれを勉強して完璧に自分のものにします。もし、資料がなく、テーマやスピーチのタイトルなど断片的な情報しかなければ、そこからリサーチを始めなければなりません。インターネットなどを駆使して、出来る限りの情報を集める努力をするのです。例えば、スピーカー名から検索すると、ある程度の有名人であれば、その人のプロフィールは言うまでもなく、過去のスピーチの原稿がネット上で入手できるかもしれません。あるいは、テーマのキーワードから検索することで、さまざまな周辺知識を得ることが出来ます。
 また、こうしたリサーチの過程で、実際の通訳の際ににそのまま使用できるように、専門用語のグロサリー(単語の対訳集)を作ることも非常に役立ちます。そして、そのような用語の準備が出来たら、すぐに訳語が口から出せるよう練習しておくことも大切です。
◎テーマを自分のものにする
 通訳者は、自分が通訳しようとする内容について、その専門家に近い知識がなければいい通訳が出来ないとよく言われます。「広く浅く」知識を持つことが重要だと言われますが、実際は、「広く深く」でなければ、本当によい通訳は出来ません。内容を自分のものにして初めて、自分白身も納得がいき、聞いている人にとっても分かりやすい通訳になります。内容理解の浅いまま通訳をすると、言葉を小手先で訳すだけの、聞き手の頭にすっと入っていかない、不自然なほど表面的な訳出になってしまいます。
 テーマを自分のものにするには、当然、その内容に精通するよう、上述したような事前のリサーチを充分行うことが必要です。そして、講演の通訳であれば、出来ればスピーカーの過去の論文や著作に目を通すなどして、その人の考え方や論理の展開の仕方などを知っておくことです。また、過去のスピーチのテープなどが入手出来れば非常に幸運です。その人の考え方のみならず、話し方まで知ることが出来るからです。
 通訳者は話し手になり代わり、自分自身がよいスピーカーとして聞き手にアピールしなければなりません。そのためには、まず、テーマを自分自身のものにすることが重要なのです。
◎直前の打ち合わせ
 事前準備の最後の仕上げは、スピーカーとの直前の打ち合わせです。クライアントが、通訳をする日の前日あるいは当日に、正式に打ち合わせの時間を設けてくれることもありますが、そうでない場合もあります。そのような時は、直前の5分でも10分でもいいので、スピーカーと言葉を交わすチャンスを見つけて下さい。それによって、その人に話し方のくせやなまりがあるとわかれば、それに対する心の準備が出来ます。また、聞き取りやすい話し方をする人だと分かれば、リラックスして通訳に臨むことが出来ます。
 少しでも打ち合わせの時間が取れたら、いくつかポイントを絞って質問しましょう。
 まず重要なのは、事前準備の段階で自分に理解できなかった事柄や単語を説明してもらうことです。特に、重要だと思われるポイントに対する理解が不十分な時には、そこをきちんと分かるようにしておかなければなりません。また、逆に、スピーカーの方から自分の話す内容を通訳者にレクチャーしたがる場合もあります。喜んでレクチャーを受けて下さい。このように、内容に関する話をスピーカーから直接聞くことで、それまで難解に思われていた事柄が、氷解するようにすっと頭に入ってくることがあります。
 また、原稿のある通訳の場合は、通訳者に事前に渡された原稿と、当日のスピーチ原稿が異なることがありますので、その点の確認は絶対に必要です。そして、原稿自体に変更がない場合も、どこか付け足す部分があるかどうか、あるいは省く予定はあるのか、そして、もし時間が足りなくなってきたらどこを省略するか、というようなことを開いておくと後で困りません。また、逐次通訳の場合は、どこで通訳を入れるのかも打ち合わせて、原稿に印を付けておけば便利です。
 最後に、通訳者にとって落とし穴ともいえるジョークや固有名詞の確認も必要です。よく、通訳者自身ジョークが分からなかった、あるいはうまく訳せなかったというようなことを聞きます。欧米人のスピーカーの場合、たいてい、スピーチの始めのあたりにジョークをはさんで聴衆の心をつかもうとします。せっかくスピーチ内容に関する事前準備を万全にして通訳に臨んだのに、最初のジョークでつまづいてしまってはあまりに残念です。通訳者にとって、ジョークはつまづきの石になる可能性が非常に高いのです。効果的な訳出が出来るよう、事前に把握しておくことが大切です。
 同様に、通訳者は固有名詞にも気をつけなければなりません。特に、人の名前は間違えると失礼になるので、事前に確認しておいたほうがよいでしょう。また、人の肩書きについても、間違えないようにしっかり把捉しておきましょう。(執筆;水野真木子)
 [2.通訳者としての職業倫理](以下略)
◎通訳者にふさわしい外観
◎信頼性
◎守秘義務
◎自己の能力に対する認識
◎さらなる自己研鑽
■関連図書■
社会福祉と通訳論」(文理閣)
 ・福祉大転換期、私たちはなにができるか(真田是)
 ・司法通訳から考える人権(長尾ひろみ
司法通訳−Q&Aで学ぶ通訳現場
 (渡辺修、長尾ひろみ、水野真木子著/松柏社)
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実践課程のテキストにもいろいろ細かく載っているので、実践課程の中で改めて勉強することになると思います。 ●実践テキスト
■参考図書■
「手話通訳者養成講座(実践課程)」
・第7講座「実習観察」チェックポイント[講演場面]&チェックシート
・第8講座「実習」自己点検ポイント[講演場面]&自己点検シート
・第9講座「実習観察」チェックポイント[会議場面]&チェックシート ●会議通訳のポイント
・第10講座「実習」自己点検ポイント[会議場面]&自己点検シート
・第11講座「実習観察」チェックポイント[面接場面]&チェックシート ●面接通訳のポイント
・第12講座「実習」自己点検ポイント[面接場面]&自己点検シート
■士の視点■ それでは、ここに書き出したものをベースにして、手話通訳士の皆さんからいただいた意見を紹介したいと思います。おおざっぱにまとめたのが資料の2枚目です。 資料1
資料の読み込み方などは、先程紹介した『プロの心構え』と同様の指摘がありました。大切なことは「理解すること」なんですね。
筑波技術短期大学で研究されている白澤麻弓さんは、
”事前準備と言うことで言うと、手話表現にばかり気を取られて、内容をちゃんとつかんでいないような資料の読み方をする人が多いですよね。 この言葉はどう表現するんだ?とかばっかり言ってる人。。。本当は言葉の表現より、それが何を意味しているのかの方が重要なはずなのですが。。
 そういう意味で、難しい原稿でもちゃんと読みこなす訓練って必要なのではないかと思います。前に、理系のワケのわからん学会原稿をもってきてみんなで読む訓練をしたことがありますが、一度意識付けすると知識がなくても結構読めるようになるものですよ。”
という意見を寄せてくれました。
私も大いに自戒したいと思いました。
■手話通訳の特性への理解をはかる■ それから、もう一つ重要な指摘がありました。
「手話通訳の特性や配慮について理解・協力を得る」ということです。
例えば、主催者からいきなり「今日のここの部分は手話では無理だろうからやらなくていいよ」なんて言われてしまうことが現在でもあります。
そうした場合に、主催者側との関係を壊すことなく、手話通訳への理解を得る工夫や機転といったものが求められます。
先程の例では、すかさず補佐の人が「ここは手話通訳者の腕の見せ所ですね」と見事に切り返して、じゃあ、手話を見てみようと言うことになり、結局、「これなら手話をやってもらった方がいいね」ということになったそうです。
この点について、つくば市の馬場さんは、こんな図を書いて以前、この講義で説明をしてくれたそうです。それが資料の3枚目です。 資料2
■参考■
2003.9.20手話通訳者養成講座Uコース「手話通訳の理念と仕事」
馬場傑さんの講演資料より
●馬場傑さんの視点
通訳者は、通訳環境をコーディネイトしなければならない。」
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手話通訳者は、単に抗議すれば良いものではありません。
情報保障の主体者であるろう者への社会の目が変化してくれることが、一番大切なのではないでしょうか。
現在、東京にある社会福祉法人・聴力障害者情報文化センターの所長・石原茂樹さんは、2003年に行われた手話通訳者研修会で、「エンパワーメント」という言葉を紹介されました。
■メモ■
エンパワメント研究所・久保耕造さんの解説

「エンパワメントという単語そのものは「能力をつける」「権限を与える」という意味である。ただし、従来のさまざまな考え方の枠組みが、障害者の「能力」や「権限」を訓練や指導によって後から付加されるものとみなしてきたのに対して、エンパワメントという考え方のもとでは、「障害者には本来ひとりの人間として高い能力が備わっているのであり、問題は社会的に抑圧されていたそれをどのように引き出して開花させるかにある」と考えるのである。
 つまり、社会的な抑圧のもとで、人間としての生き方が保障されてこなかった障害者自身に力をつけて自己決定を可能とし、自分自身の人生の主人公になれるようにという観点から、あらゆる社会資源を再検討し、条件整備を行っていこうとするのがエンパワメントという考え方であり、手法である。」
(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年8月号(第17巻 通巻193号)37頁に掲載された説明です。
●エンパワメント
■参考■
2003年6月29日(日)茨城県手話通訳者研修会
「手話通訳の理念と仕事U」(石原茂樹)より
●石原茂樹さんの視点
 1.手話通訳士倫理綱領
 2.手話通訳・聴覚障害者にかかわる法律・条文・決議
 3.手話通訳に関する論文(伊藤論文、安藤・高田論文)
 4.エンパワーメント(主体者である自分に権利をもどす)
 5.手話通訳技術
 6.手話通訳技能を向上させるために
 (1)同時通訳者の適性
 (2)通訳訓練
 (3)手話通訳者自身の中身の充実
−−1)専門的な知識と同時に、一般教養も高める
−−2)絶えず読書に親しむこと。読書力のある人は理解力も迅速で、かつ正確に内容を把握できる。
−−3)スピードリーディング(速読法)
−−4)サイトトランスレーション(原稿を見ながら、どんどん訳出していく方法)
−−5)明確な、自分自身の人生観ならびに世界観を持っていなければならない。
−−6)手話通訳者は、どうしたら受け手に正確にメッセージを理解してもらえるかを終始考え、そのためにコミュニケーションの過程において工夫創造をこらすこと。これは、コミュニケーション・スペシャリストとしての通訳者の課題であり誇りであり喜びなのです。手話通訳者こそ効果的コミュニケーションの創造者。
 (4)手話通訳と音声言語通訳との比較
 (5)コミュニケーション過程における「工夫・創造」の基本
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さて、今回、受講生の皆さんは、「通訳が始まるまでの準備」を考えてきてください、とお願いしましたね。
ところが、手話通訳士の仲間から「検証」というか「振り返り」も大切だ、という指摘をいただきました。
「自分のとった行動はあれでよかったのか?言い回しや、表現など問題なかったか?
自分で反省する。自ら気づく。仲間で反省する。仲間と考える。
現場での通訳後、どれだけ話せるかというのは大事なのでは?と最近思っています。」
「この最後までのところを考えた手話通訳の心構えが必要なのかなあと思います。」
●振り返りの大切さ
●仲間と考え、お互いに気付き合うことが大事
そうしたら別の仲間から
「以前に石原さんの講演で、「通訳後の帰る電車の中で必ず、自分の通訳についてメモを取って、自己反省する。」とおっしゃっていたのを聞いたことがあります。」
との情報をいただきました。
さらに先程の白澤さんからは、
「これ、自分で項目を立てて報告書を書くだけで全然違いますよ。最近は通訳活動が少ないのであんまりですが、以前は事前準備した内容当日の通訳状況反省今後の課題とか簡単な項目で反省を書いてたんですが、これするだけで自分で何が課題なのかとか、今度はここを押さえてやってみようというのがわかってきます。」
というアドバイスももらいました。
確かに相互批判て、なかなか難しいと思いますが、お互いに高め合って茨城の手話通訳制度をより良いものにしていこうという気持ちで、お互いに素直な意見を言い合いたいですね。
僕なんぞは、へそ曲がりなので、人の批判を素直に聞くことができないばかりでなく、終わったことはどんどん忘れるという生き方してるので、皆さんの指摘を読んで、これからは「振り返り」を大切にしようと考えています。
白澤さんはさらに一歩進んで・・・
(通訳後に反省会をやって、そこで相手に問題点を指摘された時)
言われたときにどうやって反応を返せばもっと率直な意見を聞けるのかとか、結構難しいなと思います。」
う〜ん、こんな心境になれるのはいつのことだろうか、受講生の皆さんと一緒に精進したいと思います。
では、最後に白澤さんの「良い手話通訳者」になる8ヵ条をご紹介して私の講義を終わりにしたいと思います。
■参考■
2002.12.14手話通訳者養成講座Uコース「手話通訳の理念と仕事」
白澤麻弓さんの講演資料より
「良い手話通訳者」になる8ヵ条
一.自分の通訳をビデオにとって100回以上見ること
一.通訳の後、自分の行動を振り返って反省文を100回以上書くこと
一.ろう者が自然に話している手話ビデオを100回以上見ること
一.ろう者とともに通訳について議論する時間を100回以上持つこと
一.通訳の後、泣きはらして眠れない夜を100回以上過ごすこと
一.これはうまい!と思う通訳を100回以上見ること
一.自分の通訳に率直な意見を言ってくれる仲間を100人以上見つけ
  ること
一.通訳抜きにつきあえるろうの友達を100人以上持つこと
●白澤麻弓さん
良い手話通訳者
になるための8ヵ条
■参考図書■
「資格のとり方・しごとのすべて−手話通訳士まるごとガイド」より
(日本手話通訳士協会監修/ミネルヴァ書房/2004年8月発行)
■山崎恵美子さん(元茨城県登録手話通訳者・千葉県)
通訳者として経験を重ねる中で学んだことは? 74ページ
 これはだれもが通る道だと思うのですが、最初はなんとか聞こえない方のためになるようにと、一生懸命やりすぎちゃうんです。1回の通訳でできることはたかが知れているし、何事も最終的に決めるのは聞こえない方本人なのだということを見失いがちになるんですね。次にそれを反省して「通訳だけでいいんだ、通訳に徹しよう」と正反対の方向に振れてしまう。でも、実際には、通訳だけでいい場合と援助も必要な場合とがあって、それはその人の状況によって違うんです。このことがわかるには、やはり経験と時間が必要でした。 ●山崎恵美子さんの視点
■参考図書■
手話通訳がわかる”本”」(全国手話通訳問題研究会編集・中央法規)
「手話通訳事例集」(全国手話通訳問題研究会)
「手話通訳士倫理綱領をみんなのものに」(日本手話通訳士協会)
「日本手話通訳士協会ブックレット6・支援費制度と手話通訳」
 (日本手話通訳士協会)
■参考図書■(日本語を磨く本)
NHK日本語なるほど塾テキスト
・2005年4〜5月号;山田ズーニー&リービ英雄
・2005年6〜7月号;大塚明子&佐々木瑞枝
月刊「言語」(大修館書店)
・2005年1月号〜「手話の言語学」(市田泰弘/国リハ学院)連載
講談社現代新書「外国語としての日本語」(佐々木瑞枝著)1994.4

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