活字情報

書籍1

タイトル 障害受容−意味論からの問い
著者 南雲直二(なぐも なおじ)
国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所・心理実験研究室員
出版社 荘道社(電話03−3222−5315)
発行日 1998年10月31日 初版第1刷
読了日 1999年7月
価格 1500円+税75円

読んだきっかけ

1999年6月19日(土)〜20日(日)に東京都心身障害者福祉センターで開かれた「第8回聴障者精神保健研究集会」の記念講演としていらしていたのが、南雲さん。
講演テーマは「障害受容とピアサポート」でした。
障害は本人が受け入れ「障害を克服する」のでなく、社会が受け入れる事(社会的受容)こそが重要。また、他者に受け入れられることが本人にとっても大切だという意味で、同じ障害を持つ者による「ピア・サポート」に期待している、との講演内容に感銘を受け、早速会場で購入しました。

読後感

「障害の意味は何か? 本書はその一端を解き明かそうと試みたものである」(はじめに)
南雲さんは、主に脊髄損傷など中途障害者の心理とその援助に関する研究を行っておられる。従って、先天性あるいは幼少時から障害を持つ人における「障害の意味」とは若干視点が異なるのかもしれないが、私にとっては、自分自身と障害を持つ仲間たちとの関係性を考える上でいろいろと勉強になるフレーズが多かった。
以下にそのいくつかを列挙します。

第1章 2 障害とは「苦」であるか
21頁「健常者にとって、障害者は単に苦しむだけでなく、苦しむ<べき>であり、苦しんでいなければ低評価される<べき>である」

22頁「この<かわいそう>という言葉の背後には、「あの人に比べて○○できる」といった満足感があるのではないか」

「私達健聴者が、こんなに一生懸命努力し勉強しているのに、今時の若いろう者は全然関心もないし、遊んでばかりいる」という気持ちになる事がある。
そう、ろう者は、困っていてくれなければ(手話ボランティアは)困るのである。困っている人がいるからこそ私達健聴者のボランティアのやりがいがあるってもんだ。
「何不自由ないろう者」では、いけないのだ。
そこで私はさらに勉強して「いやいや、ろう重複者こそ福祉の谷間に置かれた、真に困った人達なのだ」と考えた。

第2章 2 誤った個人主義−障害の国際分類の意義と問題
41頁(WHOが示した<機能障害>が<能力障害>を引き起こし、<社会的不利>につながる、という障害モデルについて)車椅子の人がアパートを借りられないのは社会的不利である、と障害者個人の側から考えるのでなく、多くの大家が車椅子の人にアパートを貸したがらないから社会的不利が発生する、と考えれば、むしろ社会的不利は、機能障害や能力障害をもった人達に対する社会の人々の否定的態度に由来するところが大きい、ということになる。
障害も障害を負った個人にすべてを負わせるのは誤りである。そうした個人に最大の努力を迫ることも誤りである。中庸の努力で十分である。足りない分は社会が肩代わりすれば良い、と言っては言い過ぎか。

機能障害・能力障害・社会的不利というWHOの障害モデルは、たいへん優れた考え方だと思う。しかし、それを一方向の矢印で結びつけて、「だから社会的不利が発生するのだ」と考えていた私は、障害者個人の「克服」をどうサポートするかという視点に立っていたように思う。機能障害や能力障害は、社会的不利の原因ではなかったのだ。むしろ、(障害があるのだから)「社会的不利は当然(やむを得ない)」というような私の側(?)の否定的態度に真の原因があったのだった。コロンブスの卵のような発想の転換を感じた。

第3章 障害受容がめざしたもの
63頁 私達にとって大切なことは、患者の心の「あてっこ」ではなく、むしろ患者の心を分かろうとする姿勢である。そこにコミュニケーションが生まれる。

第4章 障害受容パラダイムのほころび

第5章 心的外傷論

第6章 3 障害の層別化という問題
社会はスティグマのある人(障害者という烙印を押された人)を排除しようとする。人生の途中でスティグマを持った人は、一方では、スティグマ以前の排除する側の気持ちをもち、もう一方では、排除にさらされる。この両価的感情のため、自分より一層判然とスティグマのあることが分かる人々に向かって、スティグマのない人が自分に対してとるのと同一の態度をとるというのである。(社会学者ゴッフマン)
しかしながら、もう一歩踏み込むと、お互いに分かり合うことができない、といったこと(身体的相互了解性の欠如)が、根源的な原因ではないだろうか、というのが私の考えである。

「ゆえに、ピア・サポートが有効だ」と南雲さんは結論づけている。
終章(補論)として「医者と患者、そして家族との対話の可能性と限界」について書かれている。
巻末には丁寧な用語解説もある。

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