おはよう茨城の紹介
考えてみると、そもそも関東地域以外の方は、「おはよう茨城」なんてテレビ番組見られないわけですから、このコーナー自体が訳の分からないものになってたと思います。
そこで、ちょっとだけ「おはよう茨城」のこと及び手話通訳挿入のことについて書いてみたいと思います。(この原稿は日本手話通訳士協会茨城支部から依頼のあった「”おはよう茨城”の内容紹介と問題点」という原稿に加筆したものです。)
どんな番組? 「おはよう茨城」は茨城県が制作している広報番組です。
毎週日曜日の朝5時45分から6時までの15分間、関東地方の8チャンネルで放送されています。
休みの日の早朝ということでなかなか普通に起きて見ている方は少ないのではないかと思います。手話通訳者仲間はたいてい留守録でビデオに録って後から見ているようですが、僕の場合しばしばビデオテープのセット自体を忘れて自分の通訳さえ見られないことがあります。
是非、ビデオライブラリーとして揃えていただき、これまでの放送をいつでも見られるようにしていただけると良いです。(フジテレビに掛け合ってみようかな…DVD化して売るとか)
番組では茨城県内の観光スポットの紹介やイベントの様子なども放送されるので、どこかへ遊びに行くときの下調べの参考にもなりますし、サークルで行事を企画する時にも役立つと思います。誰が通訳? 1回15分の番組を二人の手話通訳者で担当しています。
一人が実際に通訳をする「メイン通訳者」。
もう一人は、通訳チェックや当日テレビ局側のスタッフとの交渉などを行う「サブ担当者」と呼んでいます。メインとサブとでは、そのくたびれ方に天と地ほどの開きがあります。いつ収録? 日曜日の朝5時45分からの放送ですが、
番組のビデオ(手話通訳が入る前のもの)ができあがるのが、前の週の木曜日です。
宅急便で送られてくるビデオが手話通訳者の自宅に届くのが金曜日。
そして手話通訳のビデオ撮影は月曜日の午後ですから、準備の時間は金曜の夜を入れてもたったの3日しかありません。「3日もあるんじゃない」とか感じるかもしれませんが、すっごい大変だし精神的なプレッシャーもすっごいものがあるんです。
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できるだけ全てのセリフやナレーション及びテロップ(画面に出てくる説明文字)が入った台本を一緒に送って欲しいとお願いしているのですが、なかなか完全なものはもらえません。
(1)ナレーション原稿だけという場合は、まずビデオを見て出演者のセリフやテロップを書き起こす作業をしなければなりません。
(2)地名や専門用語で手話表現が分からない場合は、調べたりろう者や先輩通訳者に教えてもらわなければなりません。
番組の中で話されている内容自体が難しくて、関係する基礎知識・情報を調べて勉強しなければならない場合もあります。(意味が分からなくては通訳できないですから)
(3)一応の表現方法を考えたら、次は実際にビデオを流しながら表現してみます。
ところがテレビはセリフが早かったり、出演者が二人以上で次々に話したりすることも多いですから、なかなか考えたとおりの手話表現では間に合わない場合が多いのです。
また、画面に出ていない人のセリフやナレーションがほかの声と重なってしまうと「誰の発言か?」が伝わらない場合もあります。
これ以外にも画面の中で出演者が指さしている「方向」や「視線」に合わせて手話通訳者も表現しないとわかりにくい部分があったり、逆にセリフがないけど次の場面までちょっとだけ「間(ま)が空いてしまう」場合も、その場面にふさわしい表情を作って待ってることが求められます。
(4)そこで次にビデオのタイミングや映像の流れ・方向などを見ながら表現を練り直す作業を行わなければなりません。
この作業をするには、ホントは実際に自分をビデオカメラで撮影してみてチェックするのが一番良いのですが、時間的になかなかそこまでやる余裕がないのが現実です。
(5)自分なりの手話表現をまとめたら、あとはビデオを流しながら繰り返し練習します。テレビ画面に映るときにはワイプという小さな枠の中での通訳になりますから手話が上下左右に大きすぎると画面からはみ出してしまうので、コンパクトに表現する工夫も必要ですし、表情もはっきりと出せるよう練習します。どこで撮影? 番組製作会社が2つあって、「バンエイト」さんは、天王洲(東京モノレール「天王洲アイル」駅)に、「共同テレビ」さんはお台場(ゆりかもめ「お台場海浜公園」駅)まで出かけていかなければなりません。
いずれも一般にイメージするような「テレビ・スタジオ」ではなくて、ただの会議室や倉庫のような部屋に機材を持ち込んで撮影します。
往復にはすごく時間もかかりますし、交通費も出ませんから「だったら水戸や土浦・つくばあたりでもできそうな場所があるんじゃないのかなぁ〜」といつも感じます。つくば市にはケーブルテレビの会社があるとのことですが、そこなんかに委託することってできないんでしょうか。どんな風に? ブルーバック(背景)の前でカメラに向かって通訳します。
カメラの横にビデオモニターを置いてもらい、登場人物の位置やテロップ(説明文字)の出るタイミングなどに気をつけながら通訳しますが、視線はいつもカメラを見ている必要があります。
これが意外と難しいのです。カメラの中から自分の知ってるろう者がこっちを見つめていてくれるんだと思いながらカメラに向かって一生懸命通訳しますが、カメラはうなずいてもくれませんし、逆に周りにいるスタッフ(ディレクターやカメラマン、照明さんなど4名くらい)からじっと見つめられている訳ですからとっても緊張します。
最初に1回リハーサルをやり、すぐに本番撮影ですが、15分をいっぺんに通訳するのは大変なので、人によっては途中で区切れるところで一度カメラを止めてもらい2回に分けて撮影する場合もありますが、僕は「一発撮り」が基本です。
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1回撮影が終わるとサブ担当者がいろいろとコメントを言います。「顔がうつむきすぎ」とか「あそこの手話は分かりにくいから違う表現にして」とか「登場人物と左右が反対だったよ」などなど。特に難しいのが場面の切り替わる部分や番組の最後でキチンと時間内に手話を終わらせる必要があることです。手話通訳は聞いてから手話表現をするのでどうしても時間差が出てしまうのですが、テレビ手話通訳の場合は、セリフの最後はほぼ同時に終わらせる必要があるわけです。
最初の頃は、サブに言われるとすぐに修正できたのですが、最近は年取ったせいか、なかなか修正が利かずに、逆に指摘を受けたところで間違えたりつっかえたりで冴えない状態です。
そして2回目の本番撮影です。途中で間違えたりタイミングが遅れてしまうと当然やり直しで3回目ということになります。でも、やり直しは体力的なダメージが大きくて、やり直しが増えるほど上手くできる確率が下がってくるので、なんとか2回で終わりたいと思って集中力を最大限に高めます。
そのせいか、たった15分でも終わると本当にぐったり疲れてしまいます。
何とかOKがでて、自分でも納得できれば撮影終了。お願いをすれば収録した手話通訳のビデオをその場ですぐ見せてもらえます。ただし、ワイプの形ではなく手話通訳だけのビデオですから、番組の中で手話通訳がどんな風に見えるかは、通訳者本人も実際の放送まで分かりません。本当は放送されたビデオをろう者と一緒に見て、見やすさとか情報がキチンと伝えられているかなどについてチェックする場が必要ではないかと思いますが、現状ではなかなかそこまでできず、通訳しっぱなしとなっています。手話通訳挿入 「テレビに手話通訳と字幕を」というのは全ての聴覚障害者の願いだと思います。
CS障害者放送で手話と字幕のついた番組も始まっていますが、専用のチューナーが必要です。やはり一般の放送に手話通訳や字幕をつけられるとことが大切ではないかと思います。
「おはよう茨城」は茨城県の広報番組ということで19??年から始まりましたが、手話通訳が付くようになったのは19??年からです。最初は月1回でしたが、2001年(?)4月からは、月2回に拡充されました。現在の課題 (1)一番の課題は、手話通訳者の確保ではないかと思います。平日の昼間にビデオ収録がありますから、仕事を持っている通訳者は会社を休んで手話通訳に出向くことになります。長引く不況でどこの企業も労働条件が悪化し、人員削減の跳ね返りで一人一人の仕事が過重になっていています。現在は手話通訳士を中心に手話通訳を担当していますが、引き受けられる人がとても少ない状態が続いています。
(2)二番目の課題は、テレビ手話通訳に対応した議論・検討・研修の場が未整備なことだと思います。昨年度は「おはよう茨城」の手話通訳について議論する場をかろうじて1回だけ設けることができましたが、やはり県ろう協の組織的な活動として「おはよう茨城」を位置づけ、手話通訳内容のチェックや、番組PR、手話通訳技術の向上のための研修など行っていく必要があると感じています。
(3)三つ目の課題は、番組収録場所の問題だと思います。やはり茨城県下で行えるよう行政に対して要望をしていかなければならないと思います。
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