◆実習準備について

2003.02.06(木)記

 今年度の通訳者養成(実践)では、これまで2回の実習を行いました。そして第3回目の実習が2月9日(日)にあります。
<実習場所確保はとっても難しい!>
 そもそも厚生労働省の実践カリキュラムには3回の実習が想定されているのですが、県レベルで実習場所を確保するのは容易ではありません。昨年度は、1回しか行えなかったようですし、水戸会場については、去年、今年と実習場所を見つけられなかったように聞いています。
 昨年の全通研討論集会の「通訳者養成」分科会でも、「実習を行うのが難しい」との声が聞かれました。レポート報告のあった神奈川県でも、実際の通訳場面で実習させてもらうのではなく、「できるだけ本番に近い設定」での面接模擬通訳だったように記憶しています。
 今年度も、最初スタートした時は、「何とか1回はやりたい。去年はサ連の講演会で実習をやらせてもらったから、今年もそこで実習やらせてもらおう」くらいに考えていました。
<実習3組に分けてやりた〜い!…でも無謀かな?>
 しかし、去年の実習の様子を聞いてみると10数人の受講生が1回の講演会で10分刻みで通訳したとのこと。今年は受講生が17名なので、2時間÷17名=7分刻みになってしまうことに気付き、「これじゃ実習の意味をなさないから、何とか3グループくらいに分けて3回の実習を実現しよう!」と、ろう講師と相談し、かなり無謀な計画ではありましたが、次の3回の実習計画を立てました。
第1回
2003/01/18(土)
 今年度の県登録手話通訳者試験合格者3名(去年の実践コース受講生)にお願いし講演会&座談会を行っていただき、その通訳を受講生が実習として担当しました。会場も大きな階段教室を使い、舞台上での通訳でしたのでそれなりの緊張感をもった実習ができたのではないでしょうか。
(実習生7名)
第2回
2003/02/02(日)
 昨年同様、県南手話サークル連絡会の代表者会議の場で実習通訳をさせていただきました。ただし、昨年は講演会だったのですが、今年は実際の代表者会議の通訳でした。登録の通訳者3名と並行して会場の後方で見学のろう者中心に聞き取り通訳のみ担当しました。事前資料が少なく、ほとんどぶっつけ本番でしたが、やはり「現場」でのふるまいについていろいろ勉強になる事(つまり反省点)が沢山発見でき、実習としての成果があったように思いました。
(実習生5名)
第3回
2003/02/09(日)
 茨城県聴覚障害者大会において「実習」させてもらえないだろうか?というプランを茨聴協理事会に諮っていただいたところ、思いもかけず快諾をいただき、実現することになりました。しかも当初は「壇上はお客様に失礼なので無理。通路でやってください」との回答だったのですが、「壇上でも理事向けの通訳ならお客さんに背を向けてるから失礼に当たらないのでは?」と食い下がり、何とか大会実行委員会の了解を得ることができました。
(実習生4名)
<反省だらけの2回の実習>
 正直なところ、これまで2回の実習が順調にできたとは言い難く、講師としての反省点が沢山あります。
 <1回目>は、講演主催者と実習担当者(講師)が同じなので、講演の準備をバタバタやりながら、受講生の実習準備やってる感じで、僕個人は「指導」に集中できませんでした。ただ、この日は菊池さん以外に舩田さんと秋山さんもチェックに入ってくれたので、「チェック体制」はそれなりのものを整えられたつもりでした。ところが…。
 実習生の通訳がメロメロだと、ろう講師は「そもそも講演内容がさっぱり分からなくて、評価しようがなくなってしまう。」という問題が明らかになりました。講演いただいた3名の方のお話しはとても素晴らしかったのです。ところが慣れない舞台上の通訳で緊張した受講生の通訳は、講演者の音声語を追っかけるのに必死なあまり、「手話として意味が届きにくい」通訳になっていたように思います。
 結局、3人のろう者は「さっぱり分からない」以上のことは言えずに実習が終わってしまいました。翌週の講座でビデオ収録したものを見ながら、実習を振り返ったのですが、同じものをもう一度見てるだけで、講演者がどのような話しをしたのか、推測もつかなければ「ただビデオを再生しただけでは、”さっぱり分からない”状態は解消しない」ワケです。
 通常の学習なら、聞き取り通訳の「原稿」があるでしょうから、それを見て受講生の手話表現をチェックできますが、実習の場合は、テープ起こしでもしない限り、ろう講師は原文を知ることができないために通訳チェックを十分行うことができないのです。
 今回は、講演をしてくれた3名の方がわざわざ原稿を用意してくれたので、ろう講師は講演終了後、その原稿とビデオを見比べてチェックをしてくれたのですが、それでも話すタイミングと紙に書かれた原稿とはピッタリ一致するワケではないので、「ビデオを見てチェック」というのも大変な作業だったと思います。
 <2回目>の実習は、「会議」という要素が加わり、話者が一人ずつ丁寧に話してくれるのではなく、司会と発言者の声が続いたり、話し手の位置も様々に変わるので、通訳実習としては、ランクアップした内容となり、逆に問題点もより多く発見されました。
 また、今回は、実習のための会議ではありませんので、会議参加者にとっては「目障り」(司会者の実習生紹介の言葉)になる恐れもあり、「会議スタッフに対する配慮」も重要なポイントだったのですが、この点は、反省点になってしまいました。事前の指導不足を痛感しました。講座と実習が続いたために、直前の講座で実習生にキチンと「通訳者としてのマナー」について学習する時間を作れなかったのです。
 通訳そのものの評価については、やはり前回同様、テープ起こし(文章化)をしないと、ろう講師にとって手話チェックは難しいなぁ〜ということを感じました。
 そして、翌週の講座の進め方については、一人一人の通訳のビデオを細かく見て手話表現をチェックするよりも、
(1)ろう講師及び会場でチェックしてくれた他のろう者から一人一人に対する<全体的な評価>をまず先に話してもらい、
(2)それを聞いた実習生本人が、<その評価をどう受け止めるか>を講師との議論の中で深められるような時間を作ろう、
ということになりました。例えば、講師の評価を素直に受け止められるのか、あるいは自分ではこんなつもりで表したのだが…、とか。評価で言われてることが分からないなら講師に質問する、とかです。そして、
(3)ビデオ自体は、実習生ごとにダビングして、後ほど<自宅でじっくり見て、自己チェックと練習>をしてもらう、
という方法で進めてみよう、ということになりました。

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 2回の実習を通じて、ろう講師にとって「実習」がいかに難しい方法であるかを再認識できましたし、実習における音声語の扱い方(=〈1〉聞き取り通訳の場合の講演者の「日本語」をろう者にどうつなぐか?テープ起こしなど。〈2〉読み取り通訳の場合の通訳者の「通訳した日本語」をろう者がどうチェックするか?)について、大変重い課題を発見できたように感じました。
 そして、いよいよ<第3回目>の茨聴協大会における実習が迫ってきたのですが、こっちはやっぱり「大会」の通訳って、テキストや模擬通訳で勉強する「大会通訳」とは、その重み=プレッシャーが全然違うということを痛感する結果となりました。(つづく)
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