手話通訳者の心がけ

◆ 選挙や政治に関わる専門用語の語彙 ◆
・「立会演説会」という言葉そのものを知らない人も多いです。
・「国政選挙」
・「自治省」
・「選挙管理委員会」
・「通達」
・「公職選挙法」
・「権利」
・「政見放送」
・「スローガン」
・「参議院」
・「比例代表選挙」
・「衆議院」
・「小選挙区」
・「政党」
などの言葉の意味と手話表現、
また新しい手話<政見放送編(日本聴力障害新聞2001年7月号)>も学習しておきましょう。

● モデル通訳をみて、どんな表現の工夫がされていたか出しあってみましょう。
● 先輩通訳者に事前準備の方法など話を聞きましょう。
● 事前準備がなぜ大切なのか話しあいましょう。
● 手話通訳付き政見放送を見ましょう。
● MIMIなど聴覚障害者と参政権に関する参考資料を紹介しましょう。
● 政見放送ビデオ上映会の取り組みの経験を聞きましょう。

<木下解説>

1.専門用語のチェック

日本語ラベル 辞書該当ページ数(日;「日本語・手話辞典」、新;「新しい手話」)
立ち会い(演説会) 日955;<立つ><会う@><講演><会>
国政選挙 辞書に該当なし;<国><政治;日821><選挙;日853>
★ろう講師は、<国><指示>あるいは<国><行政;日407>と教えたが、ビデオは<国><政治>だった。受講生は講師の指示どおり表現していたが、誤りなのではないだろうか? と思っていたら、今朝の埼玉県の広報番組(テレビ)の手話通訳者が「県政」を<県><行政>と表していてビックリ。確かに県の場合は、「政治」というより「行政」ってイメージなのかもしれないけど・・・、僕の理解では「政」の漢字には<政治;日821>の手話を当てはめるが一般的であるように感じる(「政権;日818」「政策;日820」「政党;日828」「政府;日829」など)。こうした基本的な用語の手話表現が統一されていないは、「ゆゆしき問題」なんじゃないのかなぁ〜。
ところが、気になって調べてみたら・・・
「手話・日本語大辞典」(廣済堂出版)P272<政治(C)>として<指示・指導>の手話を掲載。
田中清さんが最近出した「写真と絵でわかる手話単語・用語辞典」(西東社)には、P139「政治家」の項で<講義・講習・政治><指導><人々>というように<指導>の手話がくっついているし、
緒方英秋さんの「わかりやすい手話辞典」(ナツメ社)には、P246「政治」の項に<政府・・・県・省の手話><行政>となってるし、
丸山浩路さんの「イラスト手話辞典」(ダイナミックセラーズ)には、P550「政」=<県・省>の手話表現が掲載され、その手話源は「昔の貴族院議員がかぶっていたおごそかで豪華な帽子の形を表現している」と説明されていて、つい「ふ〜ん、なるほどね」と思ってしまう、丸山さんは昔から大衆向けなのだ。(^_^;) そして「政治」は<政><指示>あるいは<講演><指示>で表現します、とされている。

まとめてみると、「政治」「政」に対しては、<講演>の手話と<県・省>の二つの手話が当てはまり、
さらに「政治」という用語については、
 1)<講演>のみ
 2)<講演><指導>
 3)<県><行政>
 4)<県><指導>
 5)<指導>
の5パターンがあることになる。手話って奥深いですねぇ〜、参った(*_*)
自治省 「自治」日649<自分ひとり><指導>+<省→県;日483>
選挙管理委員会 「選挙」日853+「管理」日363<調べる><「り」>+「委員」日84<名前A(関西の「名前」)>または<バッチ>+「会」日264
★ろう講師は、「管理」のところで、<調べる><整理>というように<整理・準備>の手話を付け加えて指導していた。
★「委員会」の見出しで全日ろう連の辞書には、「委員」=左手のひらを右人差し指で軽くたたく、という手話が掲載されていた。これは初めて見ました。関西(京都?)の手話だね!
通達 日1091;<指令>
公職選挙法 公職;「公務」日527;<公(おおやけ)><仕事>+<選挙;日853>+「法」日1761=「規則」日383>
権利 日498;<力><「り」>
★関係ないけど全日ろう連辞書の次項目「権力」=<力><左(強い)>で説明されている。「り」が付くか付かないかで、ずいぶん意味に隔たりがあるなぁ〜、やっぱ必ず「り」をつけなきゃね、と感じた。
政見放送 「政見」;新24+「放送」;日1771(左手マイク+右手で前方に向かってパッパッってやる)
★「政見」の解説には、”<政治>と<見解>を合成しました。”とある。そういえばこの手話が作られた頃、石川芳郎さんの勉強会で”左手の手のひらを上に向けて「政治」、下に向けると「講演」”なんて説明を受けたような記憶が・・・。しかも「放送」の手話がまた表しにくくて、なかなかスムーズに表現できなかったのが懐かしい。東京では「放送」は、(両手で前方に向かってパッパッってやる)の表現の方がポピュラーだと思う。茨城のろう講師も両手同形の手話だった。
スローガン 日814;<タイトル>
★僕なんかは、指文字「ス」を下に降ろす表現を使ってるけど、そんな表現は手元にあるどの辞書にも載ってなかった!ろうあ運動用語かしら・・・。
参議院 日611;<参><評議員>
★僕は、<参><「ぎ」><員(メンバー・会員・バッチの手話)>
比例代表選挙 「比例代表」;日1646<比例><代表>
★<比例>の解説には、”二つの量が同じように変化することで、両手の人差し指の先を左上に向けて上下させる。”とある。グラフのように両手一緒に上下させるんだね。でも、最近は「割引・値引き」と同じように斜めにまっすぐ降ろすのが主流なのかな、ろう講師はそのように説明していた。
衆議院 日685;<予定><評議員>
★解説に”<予定>は「予」の旧字体「豫」の「象」が「衆」に似ていることに由来。”とある。僕は昔「予算審議について衆議院の優越権が認められているから」と教わった。それで”予算の衆議院”と覚えていたのだが、いずれの説明も、イマイチだね。
小選挙区 「小」「選挙」<「く」>
政党 日828;<政治><党>あるいは、<政治><グループ>
★「党」については、解説に”指文字「と」で<グループ>の動きをする”とある。従って表現方法の解説には”両手で指文字「と」を示し、手前に引きながら水平に円を描く”となっている。向こうから手前に円を描くのが「正調」だと思うが、”手前から円を描いてもどっちでもいい”なんて説明する人もいるから混乱する。「と」が基本なのじゃないだろうか。

●講師(テキスト)はこれらを「専門用語」として掲げたが、実際の政見放送で使われるのは、恐らく「参議院」「衆議院」「政党」くらいじゃないだろうか? 「専門用語」とはいったい何についての「専門用語」なのか?という整理が必要だと思う。

2.新しい手話<政見放送編>(日本聴力障害新聞2001年7月1日号)に掲載された手話は次のとおり。

●さあ、あなたはいったいいくつ表現できるでしょうか? って僕がなるほどと思ったのは「漏洩」と「NPO」くらいだった。

●今年の、<政見放送用語>は、なんだろう? ってすぐに思い浮かばないのが悲しい。でも、この「時事用語」を書き出して、意味を確認し、手話表現を統一する作業って、すっごい大切な作業だよね。選挙にあたって、ろう者と通訳者が共同でまずやらなきゃいけない作業かも。

3.そして、後半の箇条書きについて

● モデル通訳をみて、どんな表現の工夫がされていたか出しあってみましょう。
● 先輩通訳者に事前準備の方法など話を聞きましょう。
● 事前準備がなぜ大切なのか話しあいましょう。
● 手話通訳付き政見放送を見ましょう。
● MIMIなど聴覚障害者と参政権に関する参考資料を紹介しましょう。
● 政見放送ビデオ上映会の取り組みの経験を聞きましょう。
  1. 表現の工夫
  2. 事前準備の方法
  3. 事前準備の大切さ
  4. 実際の政見放送
  5. 参考資料
  6. ビデオ上映会の経験談
  1. 「たいした表現の工夫が見られないんですけどぉ〜、ほとんど言葉どおり。(-_-;)」
  2. ろう講師のために、やはりテキストに資料をいれるべきだと思う。なかなかまとまった資料がないのだ。僕も今回この講座をきっかけに、今こうして整理を試みているワケだけれど、とっても大変な作業だよ。「事前準備」ったって簡単じゃないのだ。その都度、思いついた資料を片っ端から読んでる状態だからね。今回、講座のおしまいにろう講師から振られて「事前準備」について話したけど、全然まとまった説明ができなくて、情けなかった。まだまだ頭の中が整理できてないのだ。若い人たちに、「最低限こんな準備をして臨もうね」と言えるだけの「事前準備」ができてないことを痛感した。
  3. 「大切さ」というのは、いったいどういうことを考えているのか?「参政権を保障するための重要な通訳だから」というような趣旨なのか、「政見放送は内容が難しくって大変だから」十分準備しておかないとエライ目に遭うよ、と言いたいのか? ここも僕は頭の中を整理し切れていないのだ、悲しい×2。
  4. これがなかなかビデオがないのだ! 今回、士仲間にメールで呼びかけて「これまでの手話通訳付き政見放送のビデオ貸して」って頼んだのだけれど、茨城には持ってる人が誰もいなかった。僕も自分が出た茨城県自民党のビデオが録ってあるんじゃないかなぁ〜と思って探してみたんだけど、ありませんでした。教材の積み上げがないんだよ、悲しい。
  5. これがまた「手に入る資料」って全通研の研究誌と「障害をもつ人々と参政権」くらいなんだよね。ろう講師で研究誌のバックナンバーもってる人がいるかよ?!って感じ。また、後者の本は260ページある単行本だから、ろう講師に読んでもらうのはシンドイっすよ。
  6. 今回の講座では、この点に全く触れなかったこともすっごい反省してる。(これは、別に詳しく書きます。)

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