<手話通訳者研修会>
2003年2月23日(日)10:00〜12:00 下館中央公民館
「読み取り通訳のコツ」
−「なんとなく『言ってること』はわかるんだけど、日本語が出てこないのよねぇ〜」病について考える−
それは、何一つ明らかに見えてないし、どれ一つとして日本語に換えようとしていないからなのです。
カリキュラム(案)
1.事前準備
せっかく県西で研修会を、それも「読み取り」の研修会をやるわけですから、地元のろう者の全面的な応援を願おう、と考えました。
(1)1月18日に通協県西支部の例会にお邪魔して、「地元のろう者の手話をビデオ撮りして、かつ、読み取った内容の文章化をろう者と共にやってください。」とお願いしました。
・3名のろう者のビデオ撮りができたそうです。
・1/31に県西のみんな(ろう者も)が集まって<文章化作業>をやってくださいました。これを教材にします。
・ホントはここまで地元でやってくれれば研修の所期の目的は達せられたように思っています。(^-^) それは、「手話は、ろう者から学ぼう」ということと「通訳者を育てるのはろう者の責任」ということをろう者と聴者が確認し合い、お互いに助け合って勉強していく学習風土を作っていって欲しいということなんです。
2.研修テーマ
(2)当日の研修のテーマは、日本手話通訳士協会が作った「手話通訳士二次試験対策ビデオ」をパクらせていただいて〈1〉手話の文脈をつかむ、と〈2〉日本語の文章をしっかり組み立てる、にしたいと考えていますが、両方やるのは時間的に無理があると思いますので、〈1〉手話の文脈をつかむことを中心に、みんなの理解が進めばいいなと考えています。
3.研修の進め方
(3)まず準備体操;「視線と心」の集中力を高めよう! 解説(10時10分〜)、
<読み取り通訳のコツ1>
(a)視線の集中力を口元(鼻下あたり)中心に高める。
視線の上下・左右を避け、視線の「大小(ズームイン・ズームアウト)」がポイントです。
つまり口話に集中(ズームイン)したり、顔全体の表情を視野に入れるように拡大(ズームアウト)、さらには身体全体の身振りまで読み取り意識に入るように拡大するのです。
一つ一つの手話を目で追うのでなく基本は「顔(口話+表情)」に置きながら手話が「視野(意識)に入ってくる」のがベストです。
<追加>
今回のビデオを見ていて思ったのですが、もう少し顔全体の表情(特に目元=目線とまゆげの表情)や角度(うつむくとか横向くとか、斜め上方を見るとか…)を見ることが大切かなぁ〜と感じました。
(b)心は、話し手であるろう者に「乗り移る」ような気持ちで。(「聞き手(聴者)」のままではダメ)
心(感情)の置き所というのか、自分が話し手のろう者になりきれるような心の持ち方ができると良いです。
「何を言おうとしているのか?」という対象化ではなく、「何を言いたいか?」という同化のスタンスが通訳者に求められるように思います。
(4)3名のろう者のビデオがありますので、まず1本目を見ます。
<進め方1>10:15〜 (教材;古河・猿島の日脇さんの手話)
・2人一組になって、一人が通訳担当、もう一人がお客さん担当になってください。
・ビデオが終わったらすぐに通訳担当の人が逐次口頭通訳して、もうお客さん担当の人に聞いてもらってください。
・聞いた人は、簡単でけっこうですので、それを書き取ってあげてください。
<追加>
ここで大切なのは、「どの動きを読み取れなかったか」を意識化することです。「あの手話の次のあの動きはなんだったろう?」とか「あの手話と次の手話の間になんかあったように思うんだけど…見えなかった。」ということを頭の中で考えるのです。
「もやもやしてた」、とか「なんとなくわからない」ではなくて、通訳するには、まず<言葉に対する分析的な視点>が最低限必要なのです。
・第1組目・第2組目の人に、書き取ったメモを発表してもらう。
※実はこの日、パソコン要約筆記のスタッフに来てもらっていますので、発表をその場でスクリーンに映し出し、ろう者にもチェックしてもらいます。
<木下解説>10:25〜 (もう一度、ポイントを押さえる。)
「最初に言いましたように、今日の学習のポイントは<手話の文脈をつかむ>と<日本語の文章をしっかり組み立てる>ことです。
「禁じ手は、ろう者のお話しを見ながら、一個一個の手話を音声語に替えるというヤツです。これをやってはダメです。それをやるといつまでも「最初から音声語読み」になってしまうのです。まず、手話を手話で理解できるようにトレーニングを積みましょう。」
<進め方2>10:30〜
「では、担当を交代してください。今度の通訳担当の人は、逐次口頭通訳ではなくて、シャドウイングをやってもらいます。つまり、ビデオを見ながら<同時に>通訳担当の人が、口頭ではなく手話で、お話の内容をそのまま説明(通訳)してあげてください。」
「その際、できるだけ日脇さんの手話を真似てみてください。表情とかリズムとかを真似るのです。そうすると日脇さんがどんな気持ちで話していたかちょっとだけ近づけるようになります。」
「もうお分かりだと思いますが、これは、手話を手話で理解するためのトレーニングです。手話を読み取って、手話で通訳するわけですね。」
「じゃ、ビデオを流します。」
・第3組目、第4組目にシャドウイングを発表してもらう。<ビデオ再放映>
<進め方3>10:40〜 ビデオチェック
「3回目、今度は、口頭でもシャドウイングでもなく、筆談通訳です。手話を知らない難聴者に書いて通訳するつもりで、読み取った内容をお客さん担当の人に書いて通訳してあげるワケです。書き取り試験と同じ要領です。ただしメモはとらないように。」
(全員でやって、あとでお互いにチェックしあいましょう。)
「ポイントは<文脈をつかむ>ですから、まず、ちゃんと手話が読めた部分と、読めなかった部分を明らかにして、勝手に想像で書かないように。ちゃんと読み取れた内容を書いて通訳してください。」
「じゃ、ビデオ流します。」<ビデオ放映>
<追加>
書いたものをお互いに交換して、チェックし、評価してあげてください。
ポイントは、
(1)日脇さんのお話しの中身(文脈)が分かりましたか?
(2)日本語としておかしな部分はないですか?
「筆記通訳したメモを第5組目・第6組目の人に読み上げてもらう」 ⇒パソコン要約筆記
<進め方4>10:50〜 答え合わせ
「じゃ、ここで県西支部の皆さんがろう者と一緒に予め文章化してくれたものがありますので、答え合わせをやりましょう。」
「どこが、読めてなかったでしょうか?」
・特に読み取れなかった部分があれば、ビデオを再放映して確認。
・みんなで意見交換。なぜ読めなかったか?
読めない
レベル読めない内容 対 策 レベル1 初見で目がついていかなかった表現
(読み落とし)ビデオをスローにして、一つ一つの手話や表情を細かくチェックして書き留めていくことによって、どのような微細な動きが読めないのかを自覚できるようにする。 レベル2 見えたが手話として理解できなかった表現
(語彙不足A)ビデオをじっくり見て「形の崩れた手話」や「前後の手話に引っ張られて手の位置などが基本からはずれている手話」も読めるようにする。 ※ここまでのレベルは基礎体力不足です。基本的な「視る力」が不足していますので、毎日少しずつでいいですから手話のビデオを見てシャドウイングしたりして、基礎トレーニングを積みましょう。 レベル3 読み取ったが、意味を取り違えた表現
(語彙不足B−多様な意味の理解)手話は絵画(動画)的な表現で文が構成される部分があります。あるいは時間的な前後関係の表し方が音声語とは異なる部分もあります。さらに一番難しいのが「格」の区別です。こういった文法要素を意識して読み取るトレーニングを行いましょう。 レベル4 手話の意味は理解できたが、日本語として不適切な表現
(翻訳力の不足)僕が最近一番難しいと感じているのが、翻訳力です。通訳は人の話を、別の人に伝えるワケですから、まずろう者のお話しをキチンと分析的に理解した上で、それを聞き手(聴者)に分かるような日本語に編集し直さなければりません。インプット(手話)をそのままアウトプット(音声日本語)につないではダメなのです。ここのところで根本的に勘違いしている方が多いように感じるのです。理解した手話の文脈を音声日本語で「再構成(編集)」する作業のトレーニングが必要だと思うのですが、具体的方法はまだわかりません。
<進め方5>11:00〜 4回目のビデオでおさらい。
「最後にもう1回ビデオを見て、おさらいします。担当を交代してください。」
「通訳担当の人、集中力を高めてください。最後は同時口頭通訳です。」
「ちょっと隣の人の声が気になるかも知れませんが、お客さん担当の人一生懸命聞いてあげてください。」
<ビデオ放映>
<評価を言ってあげる時間>
「お客さん担当の人、今の通訳を冷静に評価してあげてください。気付いたことを何でも言ってあげてください。通訳担当の人は、それをメモして、家に持って帰って、テレビの横に貼って、家のビデオで読み取り練習やるときは、必ず今日の評価を思い出してください。」
<追加>
担当を交代して、もう一度やりましょう。
<ビデオ放映>
⇒評価を言ってあげる時間。
<頸肩腕予防ストレッチング>11:10〜
「お疲れ様でした。ではここで休憩に入る前に、ストレッチングをやります。みんな立ってください。」
<追加>
なんでストレッチが大切なんでしょうか? ホントは最初と最後にやるものですよね。 準備体操であり、整理体操ですね?
ご存じのようにこれは頸肩腕障害の予防のためのストレッチングです。頸肩腕障害って知ってます? 手話通訳は精神労働+肉体労働なんです。 キチンと準備運動してから身体を動かさないと骨や筋肉に無理がかかります。ちゃんと身体を温めて、体中指先まで血液がめぐるようになってから通訳することが大切です。
終わったあとは、逆にクールダウンです。通訳で酷使した疲れのたまった筋肉などを軽い運動でほぐしながら、やっぱり血液を循環させることによって疲労を取り除いてやるのです。
⇒<5分間休憩>
<進め方6>11:20〜 2本目のビデオに挑戦 ;シャドウイング+筆記通訳
「あと40分しかありませんので、頑張りましょう」
「次は、結城ろう協の塚原さんのお話しです。」
「担当をまた代わってください。今度はまず先にシャドウイングをやりましょう。今度は難しいですよ。塚原さんの手話をよ〜く見て、塚原さんらしくシャドウイングしてみてください。終わったらお客さん担当の人は、評価してあげてください。すっごく似ていたとか、あそこは似ていたとか、あるいは「何か全然内容が違った」とか…。通訳担当の人は、それをメモして大切にしまってください、本日のおみやげです。」
「はい、通訳担当者深呼吸ぅ〜。集中力だよ、集中力。自分は頑張ればできるんだって、自分を信じることです。どうせダメだからって思ってると、すぐに集中力が途切れちゃいますから、余計なことを考えないように、シャドウイングすることに集中してください。」
<ビデオ放映・同時に通訳担当者はシャドウイング>
・評価を言ってあげる時間
<追加>
▲「どうでしょう?塚原さんのお話の内容伝わりました?」
△「通訳担当の人は、さっきと同様、どこがシャドウイングできなかったか、難しかったか話してください。」
「担当を交代して、もう一回シャドウイングやってみましょう。」
<ビデオ放映・シャドウイング>
・評価を言ってあげる時間
<追加>
▲「どうでした、さっき自分がやったので、今回はより分かりやすかったのでは?」
△「通訳担当の人、だいぶシャドウイングできるようになってきましたか?」
・第7組目・第8組目発表
<進め方7>11:?〜 逐次口頭通訳 ⇒変更⇒ 全員で 筆記通訳(書き取り)
・第9組第10組発表
<進め方8>11:?〜 県西支部の模範解答でチェック
<進め方9>11:?〜 3人目のビデオ(下館の上形さん)
<追加>
最後は、1分ずつに分けて「同時口頭通訳」をやってみましょう。
・逐次口頭通訳 ⇒ <修正>同時口頭通訳
<追加>・評価の時間
・発表
・県西支部模範解答チェック
う〜ん、やっぱ3本やるのは時間的に無理そうかなぁ〜。でも、県西の3地域で一生懸命ビデオ撮りやってくれたので、何とか3名全員のビデオを使って研修会を進められたらいいなと考えています。
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